16:45 〜 17:00
★ [AOS23-10] 水産関連データとEcopath with Ecosimを用いた生態系モデリングとその応用
キーワード:エコシステムマネジメント, 海洋モニタリング, 漁業の影響評価, 食物網, マスバランスモデル, 物質循環
気候変動や漁業の影響を考慮して海洋生物資源を持続的に利用するため,生態系に基づく漁業管理の必要性が唱われている.日本ではその基本概念や必要性が十分浸透しておらず,データを収集する体制が整っていない.しかし日本周辺では水産資源調査や海洋モニタリングが長年にわたり実施されており,既存のデータを活用して生態系の状態や漁業との関係を理解することは有効であろう.そのような観点から水産総合研究センターでは,漁業関連データのEcopath with Ecosim(EwE)への適用可能性とモデルの実践的利用について検討を重ねている.
EwE(Christensen & Walters 2004, Ecol. Model. 172: 109-139)は基礎生産から高次捕食者まで,生態系を構成する機能群間の捕食被食関係を生物量の収支として表現するend-to-endモデルである.機能群iの摂取量Q_から呼吸量R_,同化されない排泄量U_を差し引いたものが生産量P_になる単純な関係,
Q_ = P_ + R_ + U_ …(1)
を想定し,さらに生産量と漁獲量Y_,被食量M2_,その他死亡量P_ (1 – EE_ ),移出入EX_,生物蓄積量BA_が釣り合ったマスバランス状態にあるという仮定,
P_ – Y_ – M2_ – P_ (1 – EE_ ) – EX_ – BA_ = 0 …(2)
を置く.(2)式の被食量M2iを,
M2_ = ∑Qj DCji …(3)
として機能群iと機能群jの捕食被食関係として表すことにより,連立一次方程式の形で各機能群が相互関係を持つ(DCjiは機能群jの食物組成に占める機能群iの割合である).この連立方程式を解くことにより物質の流量を推定し,その値から各機能群の栄養段階,機能群間の相互関係,キーストーン種,食物網のネットワーク特性や漁獲の利用特性を計算できる.しかしネットワーク特性値はモデル構造に依存するため,モデル間比較には有効ではなく,むしろ流量を栄養段階別に集約して生産性や転送特性を比較することに向いている.
漁業が生態系に与えるインパクトの指標として漁獲物平均栄養段階MTLc(Pauly et al. 1998, Science 296: 860-863)が有名だが,その他に漁獲物の生産に必要な基礎生産量PPR(Pauly & Christensen 1995, Nature 374: 255-257)や高次生物に対する負荷量としてのL-index(Libralato et al. 2008, Ecol. Model. 195: 153-171)なども計算できる.日本周辺のEcopathモデルを論文発表された世界のモデルと比較した結果,日本周辺の漁業のインパクトは中程度であり,比較的低い栄養段階を幅広く利用していることが明らかになってきた.
Ecosimはマスバランス方程式(2)を現存量Biの時間微分方程式とすることで,経時変化を予想する前方シミュレーターである.Ecopathのマスバランスを崩した後の変化を予想する点,餌生物の密度変化に対する捕食者の機能的応答を表すvulnerabilityパラメータによって変動特性が大きく変化する点は留意が必要である.ただし機能群豊度の時系列データがあれば,vulnerabilityパラメータをチューニングできる.近年EwEに様々な機能が追加され,齢構造モデルの導入,空間的不均一性の考慮(Ecospace)や経済価値計算(Value chain),管理戦略評価(MSE)などにも対応している.Ecospaceは時空間動態をシミュレーションするもので,海洋保護区の効果予測等に用いられるが,ここでもバランスの取れた均一な状態が開始点となる.
Ecopathは各機能群間の物質の流量をそのまま入力するのではなく,現存量に対する比(P/B,Q/B)や食性比率(DC)の形でパラメータ設定することにより,調査や資源解析から得られた既往の情報を取り込みやすく,生態系の構造や漁業との関係を検討する最初のモデルとして使いやすい.vulnerabilityやQ/BやP/Bをパラメータとする単純な物質循環モデルと見なすこともできる.平衡状態の仮定については,ある時点で平衡状態が達成されると考えるより,平均的な状態でバランスが取れていると考える方が受け入れやすく,一旦バランスをとった上で季節変動等をフォーシングにより表現することも可能である.適切な時間空間スケールで情報を取り込めるよう既存のデータを整備すること,他のモデルと比較して妥当性を検証すること,動的なモデルとのカップリングを試みること,これらを通じて次のステップに向けギャップを探ることは有効なアプローチであろう.
EwE(Christensen & Walters 2004, Ecol. Model. 172: 109-139)は基礎生産から高次捕食者まで,生態系を構成する機能群間の捕食被食関係を生物量の収支として表現するend-to-endモデルである.機能群iの摂取量Q_から呼吸量R_,同化されない排泄量U_を差し引いたものが生産量P_になる単純な関係,
Q_ = P_ + R_ + U_ …(1)
を想定し,さらに生産量と漁獲量Y_,被食量M2_,その他死亡量P_ (1 – EE_ ),移出入EX_,生物蓄積量BA_が釣り合ったマスバランス状態にあるという仮定,
P_ – Y_ – M2_ – P_ (1 – EE_ ) – EX_ – BA_ = 0 …(2)
を置く.(2)式の被食量M2iを,
M2_ = ∑Qj DCji …(3)
として機能群iと機能群jの捕食被食関係として表すことにより,連立一次方程式の形で各機能群が相互関係を持つ(DCjiは機能群jの食物組成に占める機能群iの割合である).この連立方程式を解くことにより物質の流量を推定し,その値から各機能群の栄養段階,機能群間の相互関係,キーストーン種,食物網のネットワーク特性や漁獲の利用特性を計算できる.しかしネットワーク特性値はモデル構造に依存するため,モデル間比較には有効ではなく,むしろ流量を栄養段階別に集約して生産性や転送特性を比較することに向いている.
漁業が生態系に与えるインパクトの指標として漁獲物平均栄養段階MTLc(Pauly et al. 1998, Science 296: 860-863)が有名だが,その他に漁獲物の生産に必要な基礎生産量PPR(Pauly & Christensen 1995, Nature 374: 255-257)や高次生物に対する負荷量としてのL-index(Libralato et al. 2008, Ecol. Model. 195: 153-171)なども計算できる.日本周辺のEcopathモデルを論文発表された世界のモデルと比較した結果,日本周辺の漁業のインパクトは中程度であり,比較的低い栄養段階を幅広く利用していることが明らかになってきた.
Ecosimはマスバランス方程式(2)を現存量Biの時間微分方程式とすることで,経時変化を予想する前方シミュレーターである.Ecopathのマスバランスを崩した後の変化を予想する点,餌生物の密度変化に対する捕食者の機能的応答を表すvulnerabilityパラメータによって変動特性が大きく変化する点は留意が必要である.ただし機能群豊度の時系列データがあれば,vulnerabilityパラメータをチューニングできる.近年EwEに様々な機能が追加され,齢構造モデルの導入,空間的不均一性の考慮(Ecospace)や経済価値計算(Value chain),管理戦略評価(MSE)などにも対応している.Ecospaceは時空間動態をシミュレーションするもので,海洋保護区の効果予測等に用いられるが,ここでもバランスの取れた均一な状態が開始点となる.
Ecopathは各機能群間の物質の流量をそのまま入力するのではなく,現存量に対する比(P/B,Q/B)や食性比率(DC)の形でパラメータ設定することにより,調査や資源解析から得られた既往の情報を取り込みやすく,生態系の構造や漁業との関係を検討する最初のモデルとして使いやすい.vulnerabilityやQ/BやP/Bをパラメータとする単純な物質循環モデルと見なすこともできる.平衡状態の仮定については,ある時点で平衡状態が達成されると考えるより,平均的な状態でバランスが取れていると考える方が受け入れやすく,一旦バランスをとった上で季節変動等をフォーシングにより表現することも可能である.適切な時間空間スケールで情報を取り込めるよう既存のデータを整備すること,他のモデルと比較して妥当性を検証すること,動的なモデルとのカップリングを試みること,これらを通じて次のステップに向けギャップを探ることは有効なアプローチであろう.