09:00 〜 09:15
★ [SGL39-01] ESR年代測定法による断層活動性評価
キーワード:ESR, 電子スピン共鳴, 熱年代学, FMR信号, 断層岩, 糸魚川-静岡構造線
2011年東北地方太平洋沖地震以後、12~13万年前以降に活動した断層を活断層として来た原発の耐震指針における活断層の定義が変更となり,40万年前以降に活動した断層も活断層と見なして活動性を評価しなければならなくなった。しかし,変動地形が明瞭でない活断層や年代測定可能な上載層が存在しない活断層の場合,活動性評価を行うことは容易ではなく,断層の活動履歴を記録している断層岩から直接活動年代を見積る技術の開発が求められている。ESR(電子スピン共鳴)年代測定法は,断層摩擦熱で一旦リセットされた断層岩構成鉱物(石英,粘土鉱物等)のESR信号や断層作用で新たに生成した鉱物のESR信号を利用して活動年代を見積る手法である(福地,2010)。
ESR法を断層に適用する際の問題として,ESR信号が断層活動時に完全にリセットされるのかどうかがこれまで議論されてきた(福地,2004)。ESR信号が不完全にリセットされた場合,総被曝線量が過剰見積りとなり,実際の活動年代よりも古い年代値が得られてしまうからである。しかし,リセットが完全であっても無くても,理論的にはESR年代値(Te)は実際の活動年代(Ta)の上限値を与える(Ta ≤ Te)ので,更新世中・後期以降の若いESR年代値が得られる時には活動性評価にそのまま利用できる。また,ボーリング掘削が可能な場合には,リセットが実現し易い地下深部から試料を採取することで,この問題を解決できると考えられる。その反面,光ブリーチングを起こす不安定な信号は,より高温状態にある地下深部では断層摩擦熱が上昇しなくても減衰し,若い年代値を与える危険性があるので,年代測定に使用する信号には十分注意する必要がある。
ここでは,2011年東北地方太平洋沖地震以降、活動性が高まっていることが指摘されている糸魚川-静岡構造線(糸静線)活断層系の一部を構成する下円井断層及び鳳凰山断層にESR法を適用した例を紹介する。完新世に活動したことが知られている下円井断層の最終活動で生成された黒色脈状岩のESR年代測定を実施した結果,石英起源のAl中心から1.3±0.2 Ma(決定係数R値99.8%),Ti中心から2.0±0.3 Ma(R値99.2%)という年代値が得られた。断層露頭から採取された試料のため,断層摩擦熱による完全リセットは実現していないが,熱的に最も不安定なAl中心の年代値から下円井断層の活動年代(T)は,T≤1.3±0.2 Maと見積もられる。一方,第四紀以降の活動性が不明である鳳凰山断層の最終活動で生成された灰色ガウジをESR年代測定した結果,モンモリロナイト起源の四重信号から1.4~1.9±0.2 Ma(R値:99.2-99.5%),Al中心から1.2±0.2 Ma(R値:99.0%)という年代値が得られた。加熱実験により,Al中心には別の信号が重なっていて年代値は過剰見積りであることが判明したので,Al中心の超微細構造(hfs:g=2.0187)から更に年代値を求めた結果,0.6±0.1 Maとなった。hfsから求めた年代のR値は98.8%と信頼性が高いことから,鳳凰山断層の活動年代(T)は,T≤0.6±0.1 Maと見積もられる。
引用文献
福地龍郎, 2004, ESR法による断層活動年代測定―その原理と実践.深田研ライブラリー63,45pp.
福地龍郎, 2010, ESR法による地震断層の絶対年代測定―その原理と適用限界―.月刊地球, Vol.32, No.1, p.16-23.
ESR法を断層に適用する際の問題として,ESR信号が断層活動時に完全にリセットされるのかどうかがこれまで議論されてきた(福地,2004)。ESR信号が不完全にリセットされた場合,総被曝線量が過剰見積りとなり,実際の活動年代よりも古い年代値が得られてしまうからである。しかし,リセットが完全であっても無くても,理論的にはESR年代値(Te)は実際の活動年代(Ta)の上限値を与える(Ta ≤ Te)ので,更新世中・後期以降の若いESR年代値が得られる時には活動性評価にそのまま利用できる。また,ボーリング掘削が可能な場合には,リセットが実現し易い地下深部から試料を採取することで,この問題を解決できると考えられる。その反面,光ブリーチングを起こす不安定な信号は,より高温状態にある地下深部では断層摩擦熱が上昇しなくても減衰し,若い年代値を与える危険性があるので,年代測定に使用する信号には十分注意する必要がある。
ここでは,2011年東北地方太平洋沖地震以降、活動性が高まっていることが指摘されている糸魚川-静岡構造線(糸静線)活断層系の一部を構成する下円井断層及び鳳凰山断層にESR法を適用した例を紹介する。完新世に活動したことが知られている下円井断層の最終活動で生成された黒色脈状岩のESR年代測定を実施した結果,石英起源のAl中心から1.3±0.2 Ma(決定係数R値99.8%),Ti中心から2.0±0.3 Ma(R値99.2%)という年代値が得られた。断層露頭から採取された試料のため,断層摩擦熱による完全リセットは実現していないが,熱的に最も不安定なAl中心の年代値から下円井断層の活動年代(T)は,T≤1.3±0.2 Maと見積もられる。一方,第四紀以降の活動性が不明である鳳凰山断層の最終活動で生成された灰色ガウジをESR年代測定した結果,モンモリロナイト起源の四重信号から1.4~1.9±0.2 Ma(R値:99.2-99.5%),Al中心から1.2±0.2 Ma(R値:99.0%)という年代値が得られた。加熱実験により,Al中心には別の信号が重なっていて年代値は過剰見積りであることが判明したので,Al中心の超微細構造(hfs:g=2.0187)から更に年代値を求めた結果,0.6±0.1 Maとなった。hfsから求めた年代のR値は98.8%と信頼性が高いことから,鳳凰山断層の活動年代(T)は,T≤0.6±0.1 Maと見積もられる。
引用文献
福地龍郎, 2004, ESR法による断層活動年代測定―その原理と実践.深田研ライブラリー63,45pp.
福地龍郎, 2010, ESR法による地震断層の絶対年代測定―その原理と適用限界―.月刊地球, Vol.32, No.1, p.16-23.