日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD22] GGOS(全球統合測地観測システム)

2015年5月28日(木) 14:15 〜 16:00 303 (3F)

コンビーナ:*松坂 茂(公益社団法人 日本測量協会)、大坪 俊通(一橋大学)、座長:福田 洋一(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地球物理学教室)、大坪 俊通(一橋大学)

15:30 〜 15:45

[SGD22-06] 2012-2014年における地球重心と回転極の移動傾向の急変

*松尾 功二1大坪 俊通2宗包 浩志1日置 幸介3 (1.国土地理院、2.一橋大学、3.北海道大学)

キーワード:Satellite Laser Ranging, 重心移動, 極移動, 気候変動, GGOS

地球重心(質量の中心)と回転極(自転軸と地表との交点)の位置は、地球の表層及び内部で起こる質量の再分配によって絶えず動いている。このような重心と極の移動は、球面調和重力場の次数1と2の成分の時間変化から計算することができる。それゆえ、Satellite Laser Ranging (SLR)による低次重力場観測によって高精度に推定することができる。本研究では、SLR解析をもとに重心移動と極移動の近年の傾向について調査する。解析には、一橋大学と情報通信研究機構が共同で開発を進める宇宙測地データ解析ソフトウェア”c5++”を使用する。6つのSLR衛星 (LAGEOS1&2, STARLETTE, AJISAI, STELLA, LARES)のデータ群を使用し、1994-2014年までの重心移動及び極移動を導いた。ここでは、1994-2002年、2003-2011年、2012-2014年の3つの期間における線形的な傾向変化について議論する。
 まずは、1994-2002年における平均的な移動速度と方向を見る。ここでは、重心移動を(年平均速度, 経度方向, 移動方向)、極移動を(年平均速度, 経度方向)で表現する。得られた結果はそれぞれ、重心移動は(0.5mm/yr, -26°, 59°)、極移動は(1.3mm/yr, -73°)、となった。これは、重心がアイスランド南海域の方向へ動き、極が西シベリアの方向へ動いていたことを意味する。極移動に関しては、VLBI等から計測されたEOPsデータとも調和的であった。これらの移動は主に、北米大陸・スカンジナビア半島・南極で起こる地殻の粘弾性的隆起(後氷期回復)によって引き起こされていたと考えられる(e.g. Wahr et al., 1993; Greff-Lefftz, 2000)。
次に、2003-2011年を見る。重心移動は(0.8mm/yr, 111°, -61°)、極移動は(5.4mm/yr, 14°)という結果が得られた。これは、重心が西南極の方向へ動き、極がアラスカの方向へ動いていたことを意味する。1994-2002年と比べると、重心移動については、速度が約1.5倍の増加、仰角は南北に反転、方位角は約135°の転換、極移動については、速度が約4倍の増加、方位角は約90°の転換である。このような傾向変化は、2000年頃から始まった極域氷床の大規模な消長によって良く説明できる(e.g. Chen et al., 2013; Dong et al., 2014)。
 最後に、2012-2014年に着目する。重心移動は(3.4mm/yr, -84°, 44°)、極移動は(8.9mm/yr, -62°)を示した。これは、重心が北米大陸の方向へ動き、極が西シベリアの方向へ動いていたことを意味する。2003-2011年と比べると、重心移動は、速度が約4倍、方位角・仰角はほぼ反転、極移動は、速度が約1.6倍、方位角は約75°変化している。
 2012-2014年における顕著な傾向変化の原因を特定するため、重力衛星GRACE、陸水モデルGLDAS、非潮汐起源の大気・海洋モデルAOD1Bを用いた検証を行った。なお、GRACEデータを用いる際は、SLRデータとの独立性を保つため、力学的扁平項の置き換えは行わず、重心項については海洋モデルから推定された結果(Swenson et al., 2008)を使用した。その結果、観測された重心移動と極移動の急変は、グリーンランド氷床の消失速度が2012年秋以降に急減速していたことに起因することが明らかになった。グリーンランド氷床の消失速度は、2003-2012年では年平均約300Gtであったが、2012年秋以降は年平均約30Gtで約10分の1の速度になっていた。なお、南極氷床には、大きな変化が見られなかった。このような急速な質量均衡の崩れが、地球重心を北半球へと動かし、極をグリーンランドから遠ざかる方向へと動かしたものと推測される。