日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 生物地球化学

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:45 104 (1F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:吉川 知里(東京工業大学大学院総合理工学研究科)、布浦 拓郎(独立行政法人海洋研究開発機構海洋生命理工学研究開発センター)

09:00 〜 09:15

[MIS26-01] メタンハイドレート分解に伴う海洋溶存酸素減少への潜在的影響

*山本 彬友1山中 康裕2岡 顕1阿部 彩子1 (1.東京大学 大気海洋研究所、2.北海道大学大学院 地球環境科学研究院)

キーワード:メタンハイドレート, 地球温暖化, 溶存酸素減少

地球温暖化に伴う海水温上昇と成層化は数千年スケール溶存酸素の減少を引き起こし、海洋物質循環や海洋生物にとって大きな影響を与えると考えられている。一方、海水温上昇は堆積層中に存在するメタンハイドレートの分解を引き起こす。分解により生じたメタンガスが海底から放出された場合、海水中でのメタン酸化により溶存酸素の減少が加速されると考えられるが、これまでその影響についてはほとんど見積もられていない。本研究では気候モデルや海洋物質循環モデル、メタンハイドレートの分布を推定する堆積モデルを組み合わせ、温暖化よるメタンハイドレートの分解量と、メタン放出による溶存酸素の減少について見積もった。
気候モデルと堆積モデルの結果から大気二酸化炭素濃度が産業革命前の4倍になった場合、1万年以上かけて約1800GtC(現在の推定量の約70%)のメタンハイドレートが分解することが示された。メタンハイドレートの分解は水温上昇が大きい北極海と、インベントリーの多い太平洋で多くなる。
次に、海洋物質循環モデルに気候モデルで計算された水温と堆積モデルで計算されたメタン放出量を与え、溶存酸素の減少を計算した。水温上昇による酸素溶解度の低下は約3000年かけて全球の溶存酸素を約45μmol/L減少させる。溶解度の低下に加えてメタン放出を与えた場合、更に最大で約15μmol/L減少させ、メタン放出の効果は溶解度低下の約1/3程度である事が示された。
一方、脱窒や亜酸化窒素の生成が起きるとされるsuboxic water([O2]<5μmol/L)や、高等生物の住めないhypoxic water([O2]<60μmol/L)の拡大について、メタン放出は溶解度低下と同じ程度の拡大を引き起こすことが示された。この大きな影響は、現在酸素濃度の低い太平洋で主にメタンハイドレートの分解が起きるためと考えられる。
本研究の結果から、水温上昇と海洋循環の変化に加えて、メタンハイドレート分解に伴うメタン放出も溶存酸素減少に大きな影響を与える可能性が示された。現在のメタンハイドレートの推定量、分布や分解により生じたメタンのうちどの程度が海洋に放出されるかについては不確実性が大きい。溶存酸素や気候への推定を良くする為にも、これらについてのより良い理解が求められる。