日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 岩石・鉱物・資源

2015年5月25日(月) 12:00 〜 12:45 203 (2F)

コンビーナ:*三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)、角替 敏昭(筑波大学生命環境系)、藤永 公一郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)

12:15 〜 12:30

[SCG58-02] 石油根源岩に含まれる炭質物のラマン分光分析

*纐纈 佑衣1奥村 文章2岩野 裕継2早稲田 周2鍵 裕之1 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.石油資源開発株式会社 (JAPEX))

キーワード:石油根源岩, 炭質物, ラマン分光法, ビトリナイト反射率

岩石中に含まれる炭質物は、石油やガスなどを生成する元となる物質であり、化学組成や構造、反射率などを分析することで、資源の量や質が評価されている。石油探査では、炭質物の熟成度を評価する手法の一つとして、ビトリナイト反射率が広く用いられてきた。しかし、ビトリナイト反射率の空間分解能は10μm程度であり、100点程度測定しないと定量的な評価ができない。そのため、ビトリナイト含有量が低い岩石においては、炭質物の熟成度が評価できないという問題点があった。
本研究では、空間分解能が1μm程度であるラマン分光法を用いて、石油根源岩に含まれる炭質物の熟成度が評価できるか検討した。先行研究において、炭質物ラマンスペクトルのピーク半値幅から温度を見積もる手法が提案されているが、適用できる温度領域は150℃から400℃であり、キャリブレーションに用いた試料に含まれるビトリナイト反射率は1%以上であった(Kouketsu et al., 2014_Island Arc)。本研究では、石油根源岩の評価において原油生成が開始される熟成度域であることから重要とされている反射率1%未満の試料の評価を目的とし、平均反射率が0.25-2.44%の試料に含まれる炭質物のラマン分光分析と反射率測定を行った。
ラマン分光分析では、514.5 nm Ar+レーザーを用い、試料表面に当たるレーザーパワーは、炭質物の構造にダメージを与えないよう0.2 mWに設定した。分析したラマンスペクトルは、波数1000-2000 cm-1の領域で、4つのピーク(D1-, D2-, D3-, D4-bands)に分離した。測定の結果、反射率が1%未満の炭質物のラマンスペクトルは、蛍光が強くなりバックグラウンドが高くなった。0.4%未満の炭質物のラマンスペクトルは、ピークがはっきりと検出されなくなった。ビトリナイト反射率1%以上の領域において、温度と相関があるとされているD1-bandとD2-bandの半値幅は、反射率1%未満の領域において、ばらつきが大きくなり相関が不明瞭になった。これは、バックグラウンドの影響で、ピークの分離が上手くできていない可能性が考えられる。変成岩や付加体堆積物に適用可能な半値幅を用いた炭質物ラマン地質温度計を、そのまま石油根源岩に適用する事は難しいと言える。一方、ラマンスペクトルのベースラインの傾きは、反射率の増加と共に小さくなり、その相関は指数関数で近似できることが見出された。ラマンスペクトルのベースラインの傾きの原因となる蛍光は、石油・石炭・ガスの主成分である炭化水素(主に多環芳香族炭化水素)に起因すると考えられるため、低反射率領域において炭質物の熟成度を評価する有用な指標になることが期待される。