日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG31] 北極域の科学

2015年5月25日(月) 15:15 〜 16:00 201B (2F)

コンビーナ:*竹内 望(千葉大学)、檜山 哲哉(名古屋大学地球水循環研究センター)、平譯 享(北海道大学大学院水産科学研究院)、田中 博(筑波大学計算科学研究センター)、野澤 悟徳(名古屋大学太陽地球環境研究所)、座長:檜山 哲哉(名古屋大学地球水循環研究センター)

15:15 〜 15:30

[ACG31-01] GRENE北極気候変動研究事業、最終年の課題

*山内 恭1高田 久美子2榎本 浩之1藤井 理行1 (1.国立極地研究所、総合研究大学院大学、2.国立極地研究所、国環研、JAMSTEC)

キーワード:北極, 海氷, 気候変動, 温暖化増幅, 地球温暖化

近年、北極は地球温暖化に伴う夏季海氷域の急減、地上気温の急上昇、氷河の縮小、永久凍土の融解など、様々な変化が起こり、単に科学的な側面のみならず、社会的にも注目されるようになってきた。こういう中で、文部科学省、グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス事業(GRENE)気候変動分野「急変する北極気候システム及びその全球的な影響の総合的解明」(2011-2015年度)(以後プロジェクトと言う)が実施の運びとなり、ここに5年目、最終年を迎えている。本プロジェクトは4つの戦略研究目標を掲げた:
 1.北極における温暖化増幅メカニズムの解明、
 2.全球の気候変動及び将来予測における北極域の役割の解明、
 3.北極域における環境変動が日本周辺の気象や水産資源等に及ぼす影響の評価、
 4.北極海航路の利用可能性評価につながる海氷分布の将来予測。
その解明を目指して公募された7つの研究課題が推進されている:
(1)北極気候再現性検証および北極気候変動・変化のメカニズム解析に基づく全球気候モデルの高度化・精緻化、
(2)環北極陸域システムの変動と気候への影響、
(3)北極温暖化のメカニズムと全球気候への影響:大気プロセスの包括的研究、
(4)地球温暖化における北極圏の積雪・氷河・氷床の役割、
(5)北極域における温室効果気体の循環とその気候応答の解明、
(6)北極海環境変動研究:海氷減少と海洋生態系の変化、
(7)北極海航路の利用可能性評価につながる海氷分布の将来予測。
このように、トップダウンで示された目標に向けてボトムアップで構想された課題を進めるという大変ユニークな構成で、分野を融合し、観測とモデルを結合するプロジェクトとなっている。国立極地研究所を中心に、全国の大学・研究機関から300名以上の研究者が結集して進める、初のオールジャパンの北極環境研究である。
 プロジェクトは、2011年開始以来、既に4年を経過し、その間、北極を周る様々な場所、スバールバルから、ロシア・シベリア、アラスカ、カナダ、グリーンランドに北極海と多岐にわたる場所で観測が行われてきた。特に、スバールバル・ニーオルスンには、高精度の雲レーダー(95 GHz)が設置され、大気の集中観測が行われている。また、北極海では「みらい」砕氷船の航海が行われ、係留系の観測も進められた。取得したデータは北極データアーカイブ(ADS)に蓄積され、解析用のインターフェースとともに供されている。また、原理的な物理モデルから大循環モデルまで、様々なモデル研究が進められて来た。これらの観測・研究を通じ、新たな研究成果が生まれている。
 いよいよ、最終のまとめに向かう時である。各課題での研究成果は着々と出つつあるが、さらに戦略研究目標に向けた科学的成果の創出が求められる。プロジェクト・コーディネーターを中心に、各々の研究成果を包括したより高度な科学的成果を生み出すべく、検討が続けられている。重要なサイエンスを糧に課題間の連携の議論も進められている。プロジェクトを実施したことにより、全体として何が言えるのか、北極温暖化増幅を中心軸として、コミュニティーに対して、また社会に対してのメッセージを明確にしていきたい。そうした検討過程で、さらに次のステップ(次期北極研究計画)に進むべき発展的課題も明らかになるであろう。