日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:黒川 宏之(名古屋大学大学院理学研究科)、松本 侑士(国立天文 天文シミュレーションプロジェクト)

17:15 〜 17:30

[PPS21-25] ホット・ジュピターの半径異常:層対流の実現可能性とその効果の再評価

*黒川 宏之1犬塚 修一郎1 (1.名古屋大学素粒子宇宙物理学専攻)

キーワード:系外惑星, ホット・ジュピター, 熱進化, 二重拡散対流, 層対流

系外惑星の質量と半径はその組成を制約する上で基本的な物理量である。しかしながら、大部分の短周期巨大ガス惑星(ホット・ジュピター)が水素とヘリウムで構成された惑星の理論モデルと比較して、異常に大きい惑星半径を持つことが観測的に明らかになっている(Baraffe et al., 2010; Baraffe et al., 2014)。この半径異常の成因を理解することは、系外惑星の組成、ひいてはその起源を理解する上で極めて重要である。
半径異常を説明するメカニズムとして、内部の組成不均質性に起因する冷却収縮の遅れが提案されている(Chabrier & Baraffe, 2007)。組成の不均質性は大スケールのオーバーターン型対流の発生を阻害し、境界層に隔てられた小スケールの層対流を誘発する可能性がある(Rosenblum et al., 2011; Mirouh et al., 2012; Wood et al., 2013)。この層対流の熱輸送の非効率性が超断熱温度勾配を生み出すことで、冷却収縮の遅れが生じる。Chabrier & Baraffe (2007)はホット・ジュピター内部の層対流構造を仮定し、その効果によって半径異常を説明可能であることを示した。
しかし、層対流はdensity ratioの逆数、Rρ-1 = α μ ∇ μ/αT (∇T - ∇ad)によって記述される限られたパラメータ範囲でのみ発生する。ここで、αT = -(∂ lnρ / ∂ lnT)p,μ, α μ = (∂ lnρ / ∂ lnμ)p,T, ∇ad = (∂ lnT/ ∂ lnp)S,μ, ∇T = d lnT/ d lnp, and ∇ μ = d lnμ/ d lnpである。系が0 < Rρ-1 < 1を満たす場合、オーバーターン型対流が発生する。 系が1 < Rρ-1 < (Pr+1)/(Pr+τ)を満たす場合、層対流もしくはturbulent diffusionが発生する。ここで、Prはプランドル数、τは組成拡散係数と熱拡散係数の比である。系がRρ-1 < 0もしくは(Pr+1)/(Pr+τ) < Rρ-1を満たす場合、系は安定である(Rosenblum et al., 2011; Mirouh et al., 2012; Wood et al., 2013; Leconte & Chabrier, 2012)。
我々はこれらの対流様式の自己無撞着な取り扱いを組み込んだホット・ジュピターの進化計算を行った。ホット・ジュピターの内部構造の熱進化をHenyey法(Kippenhahn et al., 1967)を用いて計算した。Henyey法では静水圧平衡にある内部構造を半径方向の1次元に対して計算する。対流様式はdensity ratio Rρ-1に基づいて決定した。オーバーターン型対流についてはUmezu & Nakakita (1988)の組成勾配を考慮した混合距離理論を用いた。層対流についてはLeconte & Chabrier (2012)の輸送モデルを用いた。
結果として、Chabrier & Baraffe (2007)と同様の単調な化学組成勾配を仮定した場合、組成の不均質性が惑星半径に及ぼす効果は限定的であることを示す。効果が限定的であった理由は層対流が発生しないことである。約10億年程度の時間まで、対流様式はオーバーターン型対流である。オーバーターン型対流が発生した場合、その効率的な熱輸送により、系の温度勾配は中立安定状態に近づく。従って、超断熱温度勾配は∇T 〜 ∇ad + αμ / αT ∇μ程度に限定される。約10億年が経過し惑星が冷却した後、層対流構造が形成する。しかし、層対流における温度勾配も∇T < ∇ad + αμ / αT ∇μのように限定される。従って、ホット・ジュピターの半径異常をこのメカニズムのみで説明することは困難である。