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[SCG57-24] シュードタキライトとマイロナイトを利用した足助剪断帯変形環境の推定
キーワード:足助剪断帯, 破砕-塑性遷移, 杏仁状構造, 方解石変形双晶, 石英c軸ファブリック
中部地方領家帯の伊奈川花崗岩中に発達する足助剪断帯は,NE-SW走向で正断層成分を伴った左ずれ剪断帯である (酒巻ほか, 2006).構成断層岩類はカタクレーサイトのほか,シュードタキライトやウルトラマイロナイトを密接に伴う.今回,(1) シュードタキライトに発達する杏仁状構造を充填する方解石に発達した変形双晶を利用した応力解析と, (2) マイロナイト化した石英のc軸結晶格子定向配列 (CPO) パターンを利用した変形温度の推定を行ったので,その結果を報告する.
(1) 田振露頭より得られた53MaのFT年代 (Murakami et al., 2006) をもつ厚さ11cmのシュードタキライト脈には,多くの杏仁状構造が発達する.この試料では杏仁状構造を充填する鉱物は大部分が石英と方解石で,ほとんどの方解石には直線的な変形双晶が発達する.変形双晶は双晶面における剪断変形であり,小断層と同様に古応力状態の推定に利用することができる.この方法は,石灰岩,大理石,方解石脈,などを中心に利用されてきたが,シュードタキライトに発達する杏仁状構造を充填する方解石に適用した例も報告されている (Craddock and Magloughlin, 2005).今回,杏仁状構造を充填する方解石から1491個のすべりデータを測定し (一部は金井・高木,2014 で報告済み),Hough変換を利用した多重逆解法 (Yamaji et al., 2006) により,古応力状態を推定した.その結果,足助剪断帯に対して,左ずれの剪断運動を与える応力状態と,正断層運動を生じさせる応力状態の2つが検出された.これらの応力状態はシュードタキライト形成後の応力状態であるが,足助剪断帯の運動センスと調和的であることから,足助剪断帯における岩石の変形に寄与していた可能性が考えられる.
(2) 大島露頭には,断層脈と注入脈の両者が延性変形を被ったシュードタキライトが存在する.シュードタキライトの断層脈部と注入脈部それぞれ4ヶ所にみられる多結晶集合体石英を対象に,SEM-EBSD法を用いて結晶方位を測定した.測定にはOxford Instruments社製のHKL CHANNEL5を利用した.その結果,断層脈部では3ヶ所でZ集中,注入脈部では4ヶ所すべてでランダムなCPOパターンが得られた.Z集中のCPOパターンからは350~450℃以下での転位クリープでの変形,ランダムなCPOパターンからは拡散クリープでの変形が推定される (Bouchez, 1977; Takeshita and Wenk, 1988; Sakakibara, 1995).このようなCPOパターンおよびマイロナイトの産状から,足助剪断帯は破砕-塑性遷移移領域 (無水条件で約300~400℃; Stockhert et al., 1999) において,シュードタキライトやマイロナイトを形成する変形を繰り返し被ったと考えられる.
文献
Bouchez, K. L., 1977, Tectonophysics, 39, 25-50.
Craddock, J. P. and Magloughlin, J. F., 2005, Tectonophysics, 402, 153-168.
金井拓人・高木秀雄, 2014, 日本地質学会第121年学術大会講演要旨, R15-P4, 277.
Murakami, M., Kosler, J., Takagi, H. and Tagami, T., 2006, Tectonophysics, 424, 99-107.
Sakakibara, N., 1995, Jour. Sci. Hiroshima Univ., 10, 267-332.
酒巻秀彰・島田耕史・高木秀雄, 2006, 地質雑, 112, 519-530.
Stockhert, B., Brix, R. M., Kleinschrodt, R., Hurford, J. A. and Wirth R., 1999, Jour. Struct. Geol., 21, 351-369.
Takeshita, T. and Wenk, H. R., 1988, Tectonophysics, 149, 345-361.
Yamaji, A., Otsubo, M. and Sato, K., 2006, Jour. Struct. Geol., 28, 980-990.
(1) 田振露頭より得られた53MaのFT年代 (Murakami et al., 2006) をもつ厚さ11cmのシュードタキライト脈には,多くの杏仁状構造が発達する.この試料では杏仁状構造を充填する鉱物は大部分が石英と方解石で,ほとんどの方解石には直線的な変形双晶が発達する.変形双晶は双晶面における剪断変形であり,小断層と同様に古応力状態の推定に利用することができる.この方法は,石灰岩,大理石,方解石脈,などを中心に利用されてきたが,シュードタキライトに発達する杏仁状構造を充填する方解石に適用した例も報告されている (Craddock and Magloughlin, 2005).今回,杏仁状構造を充填する方解石から1491個のすべりデータを測定し (一部は金井・高木,2014 で報告済み),Hough変換を利用した多重逆解法 (Yamaji et al., 2006) により,古応力状態を推定した.その結果,足助剪断帯に対して,左ずれの剪断運動を与える応力状態と,正断層運動を生じさせる応力状態の2つが検出された.これらの応力状態はシュードタキライト形成後の応力状態であるが,足助剪断帯の運動センスと調和的であることから,足助剪断帯における岩石の変形に寄与していた可能性が考えられる.
(2) 大島露頭には,断層脈と注入脈の両者が延性変形を被ったシュードタキライトが存在する.シュードタキライトの断層脈部と注入脈部それぞれ4ヶ所にみられる多結晶集合体石英を対象に,SEM-EBSD法を用いて結晶方位を測定した.測定にはOxford Instruments社製のHKL CHANNEL5を利用した.その結果,断層脈部では3ヶ所でZ集中,注入脈部では4ヶ所すべてでランダムなCPOパターンが得られた.Z集中のCPOパターンからは350~450℃以下での転位クリープでの変形,ランダムなCPOパターンからは拡散クリープでの変形が推定される (Bouchez, 1977; Takeshita and Wenk, 1988; Sakakibara, 1995).このようなCPOパターンおよびマイロナイトの産状から,足助剪断帯は破砕-塑性遷移移領域 (無水条件で約300~400℃; Stockhert et al., 1999) において,シュードタキライトやマイロナイトを形成する変形を繰り返し被ったと考えられる.
文献
Bouchez, K. L., 1977, Tectonophysics, 39, 25-50.
Craddock, J. P. and Magloughlin, J. F., 2005, Tectonophysics, 402, 153-168.
金井拓人・高木秀雄, 2014, 日本地質学会第121年学術大会講演要旨, R15-P4, 277.
Murakami, M., Kosler, J., Takagi, H. and Tagami, T., 2006, Tectonophysics, 424, 99-107.
Sakakibara, N., 1995, Jour. Sci. Hiroshima Univ., 10, 267-332.
酒巻秀彰・島田耕史・高木秀雄, 2006, 地質雑, 112, 519-530.
Stockhert, B., Brix, R. M., Kleinschrodt, R., Hurford, J. A. and Wirth R., 1999, Jour. Struct. Geol., 21, 351-369.
Takeshita, T. and Wenk, H. R., 1988, Tectonophysics, 149, 345-361.
Yamaji, A., Otsubo, M. and Sato, K., 2006, Jour. Struct. Geol., 28, 980-990.