日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW27] 流域の水及び物質の輸送と循環-源流域から沿岸域まで-

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 301B (3F)

コンビーナ:*中屋 眞司(信州大学工学部土木工学科)、齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、知北 和久(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門)、入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、小林 政広(独立行政法人森林総合研究所)、吉川 省子(農業環境技術研究所)、奥田 昇(総合地球環境学研究所)、座長:小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)

14:30 〜 14:45

[AHW27-16] ベトナム北部を流れる紅河河川水の主成分及び微量元素の季節変化

*井上 凌1益田 晴恵1米澤 剛2トロン シエンルアン3中野 孝教4 (1.大阪市立大学大学院理学研究科、2.大阪市立大学大学院創造都市研究科、3.ハノイ鉱山地質大学、4.総合地球環境学研究所)

キーワード:ベトナム, 紅河, ヒ素, 季節変化

中国雲南省に源流を持つ紅河は中国国内を流下し、ベトナム領では紅河断層に沿って流下し、下流域に紅河デルタを形成している。ベトナム領内では紅河沿いに、中国との国境に位置するラオカイをはじめ、バオハ、イェンバイ、首都であるハノイ、ナムディンと大きな街が存在している。2000年代に入って以降、紅河下流域(ハノイから下流)のデルタ地帯を中心に、ヒ素によって地下水が汚染されている地域が広がっていることが明らかになった。ヒ素の原因物質は紅河を通じて帯水層に運搬されていると考えられるが、その運搬過程は不明である。
本研究は紅河におけるヒ素の運搬過程を明らかにするために計画した。ここでは、ヒ素の運搬過程を追跡するために雨期(n=29)と乾期(n=45)に採取した河川水試料中のヒ素濃度と水の酸素・水素の安定同位体比を分析した結果を述べる。
紅河本流の河川水中総ヒ素濃度は雨季:1.4-9.1 μg/L、乾季:2.2-92.9 μg/Lであった。中国との国境に位置するラオカイ周辺では河川水中の総ヒ素濃度は、雨期:9.1 μg/L、乾期:33.9 μg/Lであった。WHOにおけるヒ素の水質基準値は10 μg/Lであり、雨期には基準値を下回っているもののどちらの時期も濃度は高い。雨期、乾期ともにラオカイから下流に向かうにしたがってヒ素濃度が減少していく傾向がみられた。ラオカイから約300km下流に位置するハノイ周辺では、総ヒ素濃度は雨季:1.4 μg/L、乾季:3.8 μg/Lであった。紅河に流れ込む支流の総ヒ素濃度はどちらの時期も本流の濃度よりも低い範囲にある(雨季:0.2-1.6 μg/L、乾季:0.3-4.5 μg/L)。
雨季、乾季共に試料の水の酸素・水素同位体比の値はGMWL(δ2H=8*δ18O+10)上に乗り、顕著に外れる試料はなかった。δ18Oは、雨季には多くの支流で本流よりも小さく、乾季には大きい傾向が見られた。支流が流入すると、本流のδ18Oが支流の値に近づくことから、年間を通して支流からの流入量は本流の水質組成に影響力を持っていると言える。この支流からの影響は降水の豊富な雨季に顕著である。
紅河における総ヒ素濃度は雨季よりも乾季に濃度が高く、乾季には上流域でWHOの水質基準を超えた。雨季、乾季共に紅河における総ヒ素濃度は概ね上流ほど高く、下流に向かうに従い減少した。濃度が減少する要因はベトナム領内に涵養域を持つ支流の流入である。最上流地点でヒ素の約4割が溶存態で存在し、下流に向かうにつれてその割合は増え下流ではほぼ全てが溶存態となる。