日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG64] 海洋底地球科学

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)

18:15 〜 19:30

[SCG64-P18] 係留ブイを用いたGPS/Aによる海底地殻変動自動観測の測位精度評価と精度向上へ向けた解析手法の開発

*今野 美冴1木戸 元之2太田 雄策1高橋 成実3福田 達也3越智 寛3日野 亮太2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.災害科学国際研究所、3.海洋研究開発機構)

キーワード:海底地殻変動観測, 係留ブイ

2011年東北地方太平洋沖地震では,GPS/音響結合方式(GPS/A)を用いた海底地殻変動観測により,海溝軸近傍において大きな地震時すべりが発生したことが明らかになった(Kido et al., 2011; Sato et al., 2011).プレート境界型地震の発生メカニズムの解明や,津波の即時予測による被害軽減のため,海溝軸近傍の震源域直上における,海底地殻変動と津波のモニタリングは,極めて重要である.津波の常時観測は,DONETやGPS波浪計により行われている.一方で,水平方向の変動を捉えられるGPS/Aによる海底地殻変動観測は,年数回のキャンペーン観測方式が主流であり,地震時・地震直後の地殻変動を即座に把握できないという問題点がある.そこで,津波・海底地殻変動モニタリングシステムの実用化に向けて,現在,海洋研究開発機構・ 宇宙航空研究開発機構・ 東北大学の三者は共同研究により,係留ブイを用いた観測システムの開発および熊野灘における試験観測を実施している.本観測システムは,主に,(1) 海底に設置した圧力計で津波と鉛直地殻変動を,(2) 精密単独測位(PPP) により海面高および係留ブイの位置をモニターし,(3) ブイ-海底局間の音響測距と合わせたGPS/Aにより水平地殻変動を検出,という3パートから構成される (Takahashi et al., 2014).本研究では,2014年の試験観測におけるGPS/Aによる自動海底地殻変動観測の測位精度の評価を行う.
 通常,GPS/Aによる海底水平地殻変動観測では,海底局アレイの中心直上で測距を行うことにより,水平成層構造を仮定した音速の時間変化の影響をキャンセルし,1回の測位精度20-30cm,これを半日程度繰り返し行うことで最終測位精度数cmを実現している(Spiess et al., 1998,他).一方で,本観測システムは,高潮流域で観測を行うためブイをスラック係留し,半径4kmの円周上に振れ回るブイにより,アレイ中心から離れた一カ所で毎週連続11ショットの測距,またはオンデマンド測距を行うという観測スタイルである.そのため,音速の時間変化の影響をキャンセルすることができない.アレイ中心から離れた位置で測距を行った場合の測位誤差を定量的に把握するため,過去の移動観測(個々の海底局の位置を決定するために,アレイの外側を回りながら測距を行う) 時のデータを用いて,アレイ位置を推定した.その結果,アレイから離れた場所で測距を行った場合,数10cm~数m程度アレイの重心位置がばらつくことがわかった.これと,海底地殻変動観測のモニタリングは,巨大地震に付随する大きな変位の即時観測をターゲットにしていることを踏まえ,本観測システムにおける目標測位精度を斜め1点からの測距のみで,1m程度と設定した.
 ブイ―海底局間の音響測距では, 送信波と海底局から返送された受信波との相互相関係数を計算し,相関波形の最大ピークとなる時刻をピックアップして往復走時を得る.これまでの試験観測では,セミリアルタイムでデータを転送するために,ブイ上で音響波形の相関処理を行い各海底局の最大相関時刻±1msの波形データ(8bit・サンプリング100kHz) を陸へ送信していた.しかし,試験観測後のデータ解析により,音響信号の直達波ではなく海面反射波の走時を陸へ転送する現象が,全測距の1/4程度あることが判明した. そこで,2014年の試験観測データ(解析期間1月20日~4月14日:13週間) を用いて,1つの海底局について相関ピークが複数あった場合,最も前方のピークを自動的に取得する手法(今野・他2014) を適応した走時と,従来通り最大ピークをピックアップし読み取った走時を用いて,Kido et al., (2008) に基づき1ショットごとに推定したアレイ位置をそれぞれ比較した.前者の標準偏差(1σ) は週ごとの11回の観測では,東西成分 0.45m,南北成分0.34mであるのに対し,観測期間全体では,東西成分3.6m,南北成分2.2mであった.また,後者の1σは週ごとでは東西成分3.7m,南北成分2.6m,解析期間全体では東西成分5.2m,南北成分3.9mとなった.このように反射波を取り除くことで特に同一週内におけるアレイ位置のばらつきは小さくなったが,解析期間全体ではばらつきが大きく,目標の精度1mには現状では及ばないことがわかった.測位精度を向上させるためには,係留ケーブルを短くしブイの触れ回り幅を小さくする他,斜め1点測距では中心定点観測時の何倍も誤差を拡大するため,各海底局の位置を精度10cm程度で決定し再解析を行うといった対策が考えられる.本発表では,後者の対策を行った結果,どの程度精度が向上するか議論する.