日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震予知・予測

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 103 (1F)

コンビーナ:*中島 淳一(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、座長:林 豊(気象研究所)、熊澤 貴雄(統計数理研究所)

12:15 〜 12:30

[SSS27-09] 発震機構オイラー回転による東日本大震災の本震判定

*新妻 信明1 (1.静岡大学地球科学教室、仙台)

キーワード:オイラー極, 回転角, 発震機構, 手系, 本震判定, 東日本大震災

震源域の応力場変動を解明するために,観測された地震の発震機構の変化を定量的に検討する方法として,発震機構回転角の算出法を考案し(http://www.niitsuma-geolab.net/ 特報4),2011年3月東日本大震災の本震域で起こった発震機構変動から,応力場の変遷を解析した.
 解析に使用したのは,気象庁がホームページで公開している,東日本大震災本震域で2011年に起こった地震のCMT発震機構解である.
 発震機構解として主応力軸(圧縮主応力P軸・引張主応力T軸・中間主応力N軸)の下半球方位が公開されている.これらの主応力軸は互いに直交し,主応力軸間の角距離が90°と一定しているので,主力軸方位の手系が一致していれば,二つの地震について1組の主応力軸方位を用いて,主応力軸方位の変化を球面上の1点であるオイラー極の回りの回転として表現可能である.二つの地震について主応力軸PT・TN・NPの3組を用いて3組のオイラー極と回転角が算出できる.公開されている発震機構の主応力軸方位は度単位で公開されているので,算出されたオイラー極と主応力軸組について算出される回転角は必ずしも一致しない.そこで,主応力軸組の回転角差が最小となるオイラー極と回転角を採用した.最小回転角差は0.1°程度である.
 算出されたオイラー回転極が,海溝軸方位に直交する線よりも南側に位置すれば,発震機構座標頂が島弧側へ回転し,北側に位置すれば海溝側へ回転したことになる.島弧側への回転を「正」,海溝側への回転を「負」と,符号を付けて発震機構回転角に回転極性も表現できるように定義する.
 東日本大震災の本震の発震機構を基準に,本震域で2011年に起こった地震の発震機構回転角を算出した.本震が基準なので本震の発震機構回転角は0となるが,2月16日から開始して本震直前まで続いた18個の前震は全て正回転角であるのに対し,本震後の35個の余震は負回転角であることが判明した.発震機構回転角符号が本震を境に前震と余震で急変することは,それまで蓄積されてきた歪が本震によって解放されたことに対応する.日本海溝に沿う太平洋スラブ上面では,スラブ上面に沿う西傾斜の剪断応力とスラブ上面に直交する法線応力の合力が圧縮主応力P軸方位となるので海溝側に傾斜する.前震の発震機構が島弧側への正回転であることは,前震の圧縮主応力軸圧縮軸傾斜が本震の傾斜(36°)よりも小さいことを意味しており,最も破壊し難く法線応力が最大の破壊が本震であり,破壊し易く法線応力の小さい破壊が前震であることを示している.余震の発震機構が海溝側への負回転であるのは,本震によって剪断応力は解放されたが,静岩圧はそのまま保持され応力場の主体となるため,圧縮主応力軸が垂直方向に向いて島弧方向に回転して正断層型になるためである.このように東日本大震災の発震機構回転方向の変化は,破壊力学的に説明できる.
 3月9日の最大前震M7.3の本震誤認が防災対策に深刻な影響を与えたが,発震機構回転角の符号に基づけば,前震と判定でき,本震が近付いていると予報可能であった.最大前震が前震であることは,翌3月10日のM5.2-6.8地震7個の発震機構回転角絶対値がそれまでの前震と同様に25°以内に収まっていることからも前震と判定できるが,符号付き発震機構回転角を用いれば明確に判別できる.ちなみに,最大前震の発震機構回転角は+2.0°と本震の発震機構と殆ど同じであり,本震後の余震の発震機構回転は-25°よりもずっと大きな負回転である.