日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT24] 化学合成生態系の進化をめぐって

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 202 (2F)

コンビーナ:*ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、間嶋 隆一(国立大学法人横浜国立大学教育人間科学部)、座長:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)

12:00 〜 12:15

[BPT24-05] 白亜紀後期冷湧水環境における棘皮動物の適応

*加藤 萌1大路 樹生2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.名古屋大学博物館)

キーワード:化学合成生態系, 冷湧水, 棘皮動物, 古生態, 炭素安定同位体比

棘皮動物は海洋無脊椎動物の中でも主要なグループであり,特に深海域では生物量でみてもかなりの割合を占めている.しかし熱水噴出孔やメタン湧水域といった化学合成生態系が発達するような場所では,棘皮動物がその生態系の一部として報告されることはほとんど無かった(Grassle 1985; Laubier 1989; Desbruyéres et al. 2006).しかし近年では,熱水噴出口およびメタン湧水の周囲から固有種と考えられるクモヒトデやナマコなどの生息が確認されており(Pawson and Vance, 2004; Stöhr and Segonzac, 2005),化学合成生態系に含まれる棘皮動物の存在が少しずつ知られるようになって来ている.しかしその詳しい生態や,どのようにして棘皮動物が熱水噴出孔やメタン湧水環境に進出していったかはわかっていない.そこで本研究では,棘皮動物のメタン湧水環境へ進出過程を,また当時の棘皮動物がどのような生態をしていたのかを,古生物学的研究から明らかにすることを目的としている.
メタン湧水跡を示す炭酸塩岩露頭からの棘皮動物化石の産出は,現在数か所報告されている(Gaillard et al., 2011; Landman et al., 2012).このうち,アメリカ・サウスダコタ州と日本・北海道の2地点においてフィールド調査を行い,採取した化石を用いた.本発表ではその2地点を比較し,メタン湧水域に生息していたと考えられる棘皮動物の地域差と,そのような差が生まれた原因を議論する.
サウスダコタの上部白亜系の露頭からは,少なくとも4綱5種の棘皮動物化石が得られた.棘皮動物のうちで最も多く産出するのはウミユリ,次いでウニである.特にウミユリに関しては,他で見られない特異な形態を持つことから,メタン湧水という特殊な環境に適応進化した可能性が考えられる.一方北海道の同じく上部白亜系では,メタン湧水に関わる炭酸塩岩は転石としてのみ見つかり,チューブワームの密集する転石にウミユリの茎の化石が共産する.北海道のウミユリは周囲の堆積物から産出する通常のゴカクウミユリとほぼ変わらない形態をしており,形態観察だけではメタン湧水との関わりを推察することは困難である.
そこで,棘皮動物の骨格の炭素安定同位体比(δ13C)を計測し,周囲の堆積物,炭酸塩,化石と比較することで,棘皮動物の殻形成にメタン湧水のメタンはどの程度関わっていたのかを考察した.その結果,サウスダコタ・北海道共に,ウミユリに関しては基質であるメタン湧水の炭酸塩と同程度かそれ以下の値を示した.δ13C値から,サウスダコタ・北海道共に,ウミユリはメタン湧水とある程度の関わりをもって生活していたことが示唆される.以上より,少なくともウミユリに関しては,メタン湧水に関連した生活をしていたものの,形態変化を伴うものと伴わないものがあったことが考えられる.これらのウミユリが化学合成生態系の中でどのような振舞いをしていたのか,δ13C値以外の手法で探っていく必要がある.