日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32] 地震活動

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 A04 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*林 能成(関西大学社会安全学部)、座長:中野 優(独立行政法人海洋研究開発機構)、千葉 慶太(防災科学技術研究所)

14:45 〜 15:00

[SSS32-03] 2011年山形・福島県境群発地震と棚倉構造線

*新妻 信明1長谷川 昭2岡田 知己2吉田 圭佑3 (1.静岡大学地球科学教室、仙台、2.東北大学地震・噴火予知研究観測センター、3.防災科学技術研究所)

キーワード:山形・福島県境, 棚倉構造線, 震源分布, 震源移動, 節面, 地質構造

山形・福島県境では2011年3月11日の東北沖地震に誘発されて群発地震が起こった.震源域には臨時観測点が設置され,震源の再決定がなされ,高精度の震源分布と震源移動が判明した(岡田ほか,2014地震学会).流体移動に伴う地殻破壊強度の減少によって群発地震が起こったものと推測されるが,震源域の地質構造と群発地震の関係を検討したので報告する.
 震源域は,米沢盆地と喜多方盆地の間の標高1000~2000mの山形・福島県境山岳地域で,活火山の西吾妻の西方および磐梯の北方に位置する.地質学的には,棚倉構造線が本震源域を南北に通過している.棚倉構造線は,白亜紀後期にアジア大陸東縁部に位置していた日本列島に当たる部分で起こった大規模な横ずれ断層によって形成された(100-80Ma)[?] と考えられており,現在は西側の足尾帯のジュラ紀付加体・朝日古第三紀花崗岩と東側の阿武隈白亜紀花崗岩類との境界となっている.足尾帯は西南日本内帯のジュラ紀付加体である美濃・丹波帯の東方延長とされているので,棚倉構造線は西南日本と東北日本の境界となる日本列島における第一級の構造線である.
 群発地震の震源は,吾妻・磐梯の活火山および米沢盆地・喜多方盆地の沈降部に対応しておらず,火山活動や内陸盆地の沈降とは関係していない.
 震源域の地質は;
1)日本海拡大前のジュラ紀付加体・阿武隈白亜紀花崗岩類(100-85Ma)・朝日古第三紀花崗岩(65-54Ma)とその接触変成岩類などのアジア大陸東縁基盤,
2)同心屈曲沈み込みスラブの下部マントルへの崩落による裂開大陸被覆陸成堆積物(20-16Ma),
3)日本海拡大期の海成堆積物・「グリーンタフ」(15-14Ma),
4)スラブ垂れ下がりによる日本沈没期の遠洋性堆積物(13-12Ma),
5)スラブ切断による隆起陸化後に形成されたカルデラ火砕岩(8-5Ma),
6)これらを貫くデイサイト火山岩類である.
 震源域の東側には阿武隈白亜紀花崗岩類,西側にはジュラ紀付加体とそれを貫く朝日古第三紀花崗岩が分布していることは,棚倉構造線が震源域を南北に貫いていることを示している.
 震源分布は,これらの地質体の中でカルデラ火砕岩(5)とデイサイト火山岩(6)の分布に対応しており,これらの噴出物を供給した地下のマグマ溜との関係が示唆される.群発地震活動は,デイサイト火山岩類分布域中央の貫入岩体付近から開始している.この貫入岩体は,デイサイト火山体が隆起削剥されて中央火道が地表に露出したものと考えられることから,その地下に冷却しつつあるマグマ溜の存在が予想できる.東北沖地震による東西圧縮応力の低下により地殻上部に流体が上昇し,破壊強度を減少させて群発地震を誘発,さらに地殻上部内での流体移動に伴って震源も移動したと考えられる.
 震源域の北東部では,震源が西傾斜の面上に分布し,西側深部から東側浅部に向かって震源が移動している.この西傾斜の震源面と地表の地質構造との対応については,震源深度が8-10km程度であることから容易でない.発震機構から算出される節面の方向が震源分布に揃っている場合には同一断層面に沿う変位によって地震が起こっていることが推定されることから,節面方向を地表まで延長することによって地表地質との対応を検討することができる.震源域北東部では節面の方向が西傾斜の震源分布面に沿っている.節面方向の地表延長面は,阿武隈白亜紀花崗岩(1)の西縁とそれを不整合に覆う裂開大陸被覆堆積物(2)の分布に沿っていることは,群発地震の震源が棚倉構造線に沿って移動したと考えられる.棚倉構造線に沿う北東上方への進展の後にみられる震源域の西方への進展は,流体の供給源となったと予想されるマグマ溜の上盤に沿って起こったものと考えられる.