17:00 〜 17:15
[U07-20] 東日本大震災に対する水文・水資源学会の取り組みと水文学的知見に基づく新たな被曝線量評価モデル
キーワード:原発事故, 緊急調査, 内部被曝, 集中型モデル
水文・水資源学会では,東北地方太平洋沖地震に伴って発生した水文ならびに水資源に関する急速かつ顕著な影響に対応するために,地震発生から1ヶ月以内に,当時の会長を委員長とする「東日本大震災対応特別小委員会」を設置した.これは,関連学会との情報交換・連携を強化しながら,本学会として検討すべき課題を見極め,水文・水資源学の立場から被災地域の復旧・復興に対する貢献を目指したものである.その具体的な活動として,現地の復興支援に資する水文・水資源に関連する調査研究活動を早急に立ち上げることを支援するため,調査研究グループを緊急募集し,地震発生の約2ヶ月後に3グループに対してそれぞれ40~50万円程度の財政的支援を行った.これにより,被災地におけるアースフィルダムの崩壊,地下水調査,ならびに放射性物質移動と影響評価について,各研究の初動を後押しした.これらの緊急調査の成果は,同じ年の8月末に行われた定例の本学会研究発表会において報告され,さらに詳しい研究成果が翌年9月の本学会研究発表会で発表された.3グループのうち,地下水調査については,日本地下水学会との連携によって行われ,調査地となった各自治体からも協力を得た.放射性物質の調査・影響評価については,その後,さまざまな水文プロセス研究プロジェクトの立ち上げや放射能モニタリング研究等に繋がっている.
さらに,水文・水資源学から災害対応を含む他分野への連携の手掛かりとして,放射性同位体を経口摂取した際に人体が放射線によって受ける内部被曝線量を平易に計算する方法論について論じる.東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により,原子炉格納容器から放射性同位体が漏洩,拡散した.放射性同位体が混入した食品を経口摂取した際の内部被曝によって受ける線量を計算するための手法として,CTスキャンや核磁気共鳴法(MRI)によって得られた画像をもとにして精緻に人体を数理モデル化(人体ファントム)して線量を計算する方法が,放射線医学の専門家の研究によって開発され,現在も発展を続けている.国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告は線量限度の基準を決めるために我が国を含め国際的に利用されており,内部被曝を計算するための標準的な手法として認められている.人体ファントムを用いる方法は正確な内部被曝線量を計算するためにきわめて有用な方法であるが,精緻で厳密な手法であるがゆえに,放射線医学を専門としない一般の科学者・技術者にとってその全体像を把握するのが困難なものとなっている.このような現状を鑑み,一般の科学者・技術者にとっても理解容易でなおかつ平易な方法論を提案することを目的として,人体を単一の組織とみなし,放射性同位体の原子数及び放射能強度(Bq,ベクレル)の体内残留量を連続式によって記述する.福島第一原発事故で特に注意されているセシウム137を具体例とし,そのベータ崩壊によるベータ線とガンマ線に対象を絞って議論する.人体における放射性同位体の原子数が指数関数的に減少することから,その連続式は1階線形常微分方程式になり解析的に解を得ることが出来る.放射性同位体の原子数と放射能強度は比例関係にあるので人体における放射能強度も同様の式形で記述される.内部被曝線量(体内で生じた原子核崩壊の累積回数)は人体における放射能強度を時間積分することで得られる.また,1回の原子核崩壊あたりで人体に吸収される放射線のエネルギーはFermiのベータ崩壊の理論から求められる.内部被曝総量と1回の原子核崩壊あたりで人体に吸収される放射線のエネルギーの積を体重で割ることで実効線量(Sv,シーベルト)を求められる.ICRPの先行研究で計算された実効線量の値と比較することで,本研究の方法で得られる実効線量の値が先行研究と同等に正確であることが確かめられた.本研究の方法は人体のみならず,放射性降下物が付着した土壌から収穫された農作物に含まれる放射能強度及びそれを摂取した際に受ける実効線量の計算にも適用できる.また人体における放射能強度は個々人によって分布するため,リスク評価という放射線防護の観点から,人体における放射能強度の確率密度関数とその時間発展についても考察する.本研究の結果は内部被曝の影響について放射線医学の専門家のみならず一般の科学者・技術者に理解を提供できる.
さらに,水文・水資源学から災害対応を含む他分野への連携の手掛かりとして,放射性同位体を経口摂取した際に人体が放射線によって受ける内部被曝線量を平易に計算する方法論について論じる.東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により,原子炉格納容器から放射性同位体が漏洩,拡散した.放射性同位体が混入した食品を経口摂取した際の内部被曝によって受ける線量を計算するための手法として,CTスキャンや核磁気共鳴法(MRI)によって得られた画像をもとにして精緻に人体を数理モデル化(人体ファントム)して線量を計算する方法が,放射線医学の専門家の研究によって開発され,現在も発展を続けている.国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告は線量限度の基準を決めるために我が国を含め国際的に利用されており,内部被曝を計算するための標準的な手法として認められている.人体ファントムを用いる方法は正確な内部被曝線量を計算するためにきわめて有用な方法であるが,精緻で厳密な手法であるがゆえに,放射線医学を専門としない一般の科学者・技術者にとってその全体像を把握するのが困難なものとなっている.このような現状を鑑み,一般の科学者・技術者にとっても理解容易でなおかつ平易な方法論を提案することを目的として,人体を単一の組織とみなし,放射性同位体の原子数及び放射能強度(Bq,ベクレル)の体内残留量を連続式によって記述する.福島第一原発事故で特に注意されているセシウム137を具体例とし,そのベータ崩壊によるベータ線とガンマ線に対象を絞って議論する.人体における放射性同位体の原子数が指数関数的に減少することから,その連続式は1階線形常微分方程式になり解析的に解を得ることが出来る.放射性同位体の原子数と放射能強度は比例関係にあるので人体における放射能強度も同様の式形で記述される.内部被曝線量(体内で生じた原子核崩壊の累積回数)は人体における放射能強度を時間積分することで得られる.また,1回の原子核崩壊あたりで人体に吸収される放射線のエネルギーはFermiのベータ崩壊の理論から求められる.内部被曝総量と1回の原子核崩壊あたりで人体に吸収される放射線のエネルギーの積を体重で割ることで実効線量(Sv,シーベルト)を求められる.ICRPの先行研究で計算された実効線量の値と比較することで,本研究の方法で得られる実効線量の値が先行研究と同等に正確であることが確かめられた.本研究の方法は人体のみならず,放射性降下物が付着した土壌から収穫された農作物に含まれる放射能強度及びそれを摂取した際に受ける実効線量の計算にも適用できる.また人体における放射能強度は個々人によって分布するため,リスク評価という放射線防護の観点から,人体における放射能強度の確率密度関数とその時間発展についても考察する.本研究の結果は内部被曝の影響について放射線医学の専門家のみならず一般の科学者・技術者に理解を提供できる.