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[AAS21-09] ブラックカーボンの変質過程が全球規模のその空間分布と放射効果に及ぼす影響
キーワード:エアロゾル, ブラックカーボン, 全球エアロゾルモデル, 変質過程, 物質輸送, 放射効果
大気中の多くのエアロゾル成分が太陽放射を散乱するのに対し、ブラックカーボンは太陽放射を効率的に吸収し、大気を加熱する。このためブラックカーボンが気候システムに果たす役割は非常に重要であると認識されている。ブラックカーボンは、疎水性粒子として大気中に排出されるが、他の水溶性エアロゾル成分と内部混合することで、親水性粒子へと変換される(変質過程、aging)。水溶性成分と内部混合したブラックカーボンは、太陽放射の光吸収率が増大すると同時に、雲凝結核特性を持つことで、降水により大気中から除去される。このためブラックカーボンの変質過程は、その大気中の寿命や空間分布および放射効果を決定する。しかしながら、多くの全球モデルでは、変質過程を非常に簡易的な時定数(24時間などの一定値)を用いて表現しているため、従来のブラックカーボンの空間分布や放射強制力の推定には大きな不確定性が含まれていた。このため、これらの推定精度を向上させるためには、一定値の時定数を仮定した表現ではなく、簡易的だが本質を損なわないパラメタリゼーションの必要性が指摘されていた。
このような背景に基づき、Oshima and Koike(2013)では、物理化学法則に基づきブラックカーボンの変質過程を表現する新たなパラメタリゼーションを開発した。このパラメタリゼーションでは、被覆成分の生成速度を疎水性ブラックカーボンの総量で規格化することで、ブラックカーボンの疎水性から親水性への変換速度を表現しており、汚染大気から清浄大気までのあらゆる条件下において使用することが可能である。本研究では、このパラメタリゼーションを気象研究所の地球システムモデル(Yukimoto et al., 2012)を構成する全球エアロゾルモデルMASINGAR-mk2に導入することで、大気環境に応じたブラックカーボンの疎水性から親水性への変換を表現できるモデルへと発展させた(従来は1.2日の時定数を仮定)。
新たなパラメタリゼーションを導入したモデルを用いて、2008-2009年の期間について、計算を実施した。その結果、ブラックカーボンが疎水性から親水性へと変換される時間スケールは、東アジア域などの発生源域では1日程度であるのに対し、北極域では1週間程度と、地域によって大きく変化することが明らかとなった(ともに地表面における年平均値)。また一定値の時定数(1.2日)を仮定した従来のモデル計算結果と本計算結果を比較したところ、東アジア域などの発生源域では両計算によるブラックカーボンの質量濃度の差は小さく、両計算とも観測をよく再現した。一方、北極域などの遠方域においては、両計算によるブラックカーボンの質量濃度の差は大きく、また従来のモデルでは過小評価したブラックカーボン濃度が本計算では増大し、観測の再現性が向上した。
大気上端における全球平均のブラックカーボンの直接放射強制力を推定したところ、本計算では約0.3 W m-2(従来は約0.2 W m-2)と推定された。これらの結果はパラメタリゼーションを通じて、微物理スケールのブラックカーボンの変質過程が、全球スケールの空間分布や放射強制力に大きな影響を及ぼしていることを示している。しかしながら、これらの計算では、被覆によるブラックカーボンの光吸収の増大効果を扱っておらず、直接効果を過小評価する傾向がある。本研究発表では、光吸収の増大効果を考慮した結果についても、あわせて報告したい。
参考文献
Oshima, N., and M. Koike (2013), Geosci. Model Dev., 6, 263-282, doi:10.5194/gmd-6-263-2013.
Yukimoto, S., et al. (2012), J. Meteor. Soc. Japan, 90A, 23-64, doi:10.2151/jmsj.2012-A02.
このような背景に基づき、Oshima and Koike(2013)では、物理化学法則に基づきブラックカーボンの変質過程を表現する新たなパラメタリゼーションを開発した。このパラメタリゼーションでは、被覆成分の生成速度を疎水性ブラックカーボンの総量で規格化することで、ブラックカーボンの疎水性から親水性への変換速度を表現しており、汚染大気から清浄大気までのあらゆる条件下において使用することが可能である。本研究では、このパラメタリゼーションを気象研究所の地球システムモデル(Yukimoto et al., 2012)を構成する全球エアロゾルモデルMASINGAR-mk2に導入することで、大気環境に応じたブラックカーボンの疎水性から親水性への変換を表現できるモデルへと発展させた(従来は1.2日の時定数を仮定)。
新たなパラメタリゼーションを導入したモデルを用いて、2008-2009年の期間について、計算を実施した。その結果、ブラックカーボンが疎水性から親水性へと変換される時間スケールは、東アジア域などの発生源域では1日程度であるのに対し、北極域では1週間程度と、地域によって大きく変化することが明らかとなった(ともに地表面における年平均値)。また一定値の時定数(1.2日)を仮定した従来のモデル計算結果と本計算結果を比較したところ、東アジア域などの発生源域では両計算によるブラックカーボンの質量濃度の差は小さく、両計算とも観測をよく再現した。一方、北極域などの遠方域においては、両計算によるブラックカーボンの質量濃度の差は大きく、また従来のモデルでは過小評価したブラックカーボン濃度が本計算では増大し、観測の再現性が向上した。
大気上端における全球平均のブラックカーボンの直接放射強制力を推定したところ、本計算では約0.3 W m-2(従来は約0.2 W m-2)と推定された。これらの結果はパラメタリゼーションを通じて、微物理スケールのブラックカーボンの変質過程が、全球スケールの空間分布や放射強制力に大きな影響を及ぼしていることを示している。しかしながら、これらの計算では、被覆によるブラックカーボンの光吸収の増大効果を扱っておらず、直接効果を過小評価する傾向がある。本研究発表では、光吸収の増大効果を考慮した結果についても、あわせて報告したい。
参考文献
Oshima, N., and M. Koike (2013), Geosci. Model Dev., 6, 263-282, doi:10.5194/gmd-6-263-2013.
Yukimoto, S., et al. (2012), J. Meteor. Soc. Japan, 90A, 23-64, doi:10.2151/jmsj.2012-A02.