日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG28] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 105 (1F)

コンビーナ:*白石 史人(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、長沼 毅(広島大学大学院生物圏科学研究科)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、横山 正(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、中村 謙太郎(独立行政法人海洋研究開発機構 (JAMSTEC) システム地球ラボ プレカンブリアンエコシステムラボユニット)、座長:高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)

14:45 〜 15:00

[BCG28-06] 熊野海盆における堆積物から間隙水中へのヒ素の溶出と有機物との関係

*吉西 晴香1淵田 茂司1益田 晴恵1土岐 知弘2 (1.大阪市立大学大学院理学研究科生物地球系専攻、2.琉球大学理学部)

キーワード:ヒ素, 熊野海盆, IODP

ヒ素は海底堆積物中に濃集することが知られている。本研究では、海底堆積物中へのヒ素固定メカニズムを検討するためにIODP Exp.315とExp.338によってC0002(熊野海盆)、C0021・C0022(付加体)で採取された試料を用いてヒ素濃度を深度ごとに追跡した。また有機物の熟成との関係についても検討した。
C0002地点(0~1000mbsf)(mbsf=meters below sea floor)では、間隙水中のヒ素濃度は100~200mbsfにかけて急激に増加し、最大で400ppbになった。200mbsf以深では100ppb前後を示すが、300~400mbsfにかけて200ppbまで増加する。400mbsf以深では減少を続け、600mbsf以深は30ppb未満でほぼ一定になる。堆積物中のヒ素濃度は5~13ppmで、特に300~400mbsfでは10ppmを超えている。堆積物中では深度変化に伴う急激なヒ素濃度の増加・減少は見られなかった。
C0021地点では0~150mbsfまでは0~15ppbでほぼ一定であるが200mbsfで約100ppbのピークをとる。また堆積物中のヒ素濃度も150mbsfまでは5~10ppmであるが200mbsfで23ppmと、高い値であった。
C0022地点ではC0021地点と同様に間隙水中のヒ素濃度は0~120mbsfまでは0~15ppbでほぼ一定であるが120~150mbsfで約100ppbのピークをとる。その後200mbsf以深は30ppb未満で深度による変化はない。堆積物中のヒ素濃度は3~12ppmで深度による変化はなく,ばらつきが大きい。
一般に海水中のヒ素濃度は1.7ppbである。本研究で測定した間隙水中のヒ素濃度は海水中のヒ素濃度よりも高く、深度変化に伴い増減する。これはヒ素が物理化学的な環境変化によって堆積物から間隙水中に溶出したことを示す。
C0002地点では0~500mbsfでpHが高くなるにつれヒ素の溶出が進む傾向がある。海水による希釈の影響を考慮するためAs/Clを用いてpHの関係を調べると、pH=8.3付近で最も溶出することが分かった。鉄酸化物・水酸化物に吸着しているヒ素(ヒ酸)は還元的環境下において脱着し亜ヒ酸になり、間隙水中へ溶出することが知られているので、この場所でも同様の脱着が起こると考えられる。C0021、C0022地点ではpHとヒ素濃度には関係がない。
またRock Eval法を用いて堆積物中の有機物の熟成の程度を表すTmax値を測定した結果、C0002地点ではTmaxの値が高い試料で(425~430℃)間隙水中のヒ素濃度が高くなることが分かった。この温度では有機物が無機物と気体に分解される。したがって、有機物の熟成に伴ってヒ素は堆積物中から間隙水中に溶出した可能性がある。C0021地点(0~200mbsf)でも同様に、Tmax値の高い試料で間隙水中のヒ素濃度が高くなった。一方、C0022地点では堆積物の熟成とヒ素の溶出には関係が見られなかった。有機物の熟成過程とヒ素の溶出との関係は今後の検討課題である。