日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS26] 地震波伝播:理論と応用

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 103 (1F)

コンビーナ:*齊藤 竜彦(独立行政法人 防災科学技術研究所)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、松島 潤(東京大学大学院)、西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(株式会社地球科学総合研究所)、座長:志藤 あずさ(京都大学)、武村 俊介(横浜市立大学)

15:45 〜 16:00

[SSS26-18] タブレット端末での地震波動伝播シミュレーション

*江本 賢太郎1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:モバイル端末, アプリ, 地震波伝播シミュレーション, iOS

近年,スマートフォンやタブレット端末が広く普及してきた.それらの端末で使用されているCPU性能やメモリ容量も高性能化しており,数年前のPCに匹敵する性能を持つものもある.つまり,簡単な数値計算であればモバイル端末でも行うことが可能である.また,気軽に起動させて直感的に操作するという面においては,タブレット端末の方がPCよりも優れている.本研究では,タブレット端末上での数値計算の可能性を探るとともに,手軽に地震波動伝播をシミュレーションすることのできるアプリケーションを作成することを目的とする.複雑で専門性の高い数値計算はPCで行うべきであり,ここではタブレット端末の利点である手軽さを追求する.本研究では,iPad Airをターゲットとして開発を行う.

地震波動伝播シミュレーションは2次元で行う.弾性体の運動方程式をスタッガードグリッドで差分化する.計算を簡単にするため,精度は空間・時間ともに2次とする.ここでは,地表の表現として空気の層を考え,地中は3層構造とする.空間刻みは上下・水平ともに200mとし,グリッド数は水平方向512個,深さ方向384個とした.つまりシミュレーション領域は水平方向102km,深さ方向77kmである.時間刻みは10msとした.ユーザの待ち時間をなくすため,計算終了後に動画を作成して波動伝播のようすを表示するのではなく,差分計算と同時に波動場のスナップショットを描画する.ここでは,20ステップごと(0.2s)ごとに波動場を描画する.波動場は勾配と回転を計算して,P波とS波の振幅を分離して表示させる.この時,ピクセルごとに値を指定して描画すると処理が間に合わないため,波動場の画像を作成してそれを表示させる.波動場と共に,任意の観測点での波形表示を更新する.直感的な操作の一つとして,層境界,震源位置,観測点位置を指で自由に変更できるようにする.層境界は10個の点を動かすことによって規定する.それぞれの層の速度は固定だが,境界を自由に動かすことにより,さまざまな状況における地震波動伝播シミュレーションを行うことが可能である.また,より高度なシミュレーションとして,それぞれの層の速度にランダムなゆらぎを与えることが可能である.ここでも直感的な操作を重視し,与えるゆらぎの空間スペクトルの形状を指で自由に変更できるようにすることで,任意のサイズのゆらぎを与えることが可能である.

水平方向,鉛直方向のサイズをともに2倍(面積4倍)にしてもメモリ容量に問題はない.しかし,10秒間の地震波伝播シミュレーションの計算・描画をするのに,従来は約40秒かかっていたが,2分45秒かかるようになった.波動場の描画は0.2s更新であるため,10秒のシミュレーションでは50回更新される.つまり,広くした領域では描画の間隔が1秒以上空くことになる.軽快な動作が求められるタブレット端末では遅すぎることになる.たとえば,描画を0.1s(10ステップ)更新にすれば描画間の時間は短くなるが,描画する負荷もあるため,単純に半分の時間間隔で描画が進むことにわならない.このとき,波動場の進み具合も小さくなり,軽快にシミュレーションが進んでいるようには感じられなくなる.また,波動場の画像サイズが大きくても描画の負荷が大きくなり,動作が遅く感じられるようになる.このとき,画像の細かさよりも,画像全体のサイズの影響の方が大きい.

iPadで2次元地震波伝播をシミュレーションすることは十分可能であり,直感的でインタラクティブな操作ができるため,専門家以外の人へ地震波動伝播の様子を伝えるのに役立てることができる.