日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT44] 地球化学の最前線: 未来の地球化学を展望して

2015年5月26日(火) 16:15 〜 18:00 102B (1F)

コンビーナ:*平田 岳史(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 海洋底科学部門/地球表層圏変動研究センター)、横山 哲也(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、座長:平田 岳史(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

16:30 〜 16:45

[MTT44-04] 日本の地球化学の針路

*角皆 潤1 (1.名古屋大学環境学研究科)

キーワード:日本地球化学会, 日本地球惑星科学連合, 試料採取法, 教育

代表コンビーナの平田先生から、「地球化学がどのようにして地球惑星科学分野を先導するか」紹介せよとのかなり難しい講演を依頼された。地球化学会の十八番の放言大会になるだけと予想しつつも、いくつかの負い目からつい引き受けてしまった。「地球化学」を専門と自称する研究者でも、研究の進め方や地球化学に対する思いは多様である。それらを一括りにして議論することなど出来るはずは無いのだが、私なりに知恵を絞って考えた結果をご紹介します。
結論として、地球惑星科学的に重要な試料の採取法の発展を後推しすることと、分析技術に優れた研究者が分析を担当出来るような地球惑星科学研究推進システムの構築を後推しすることが、(個別の地球化学研究者の目指す道では無く)地球化学分野全体として最も必要でかつ重要だと思っている。「はやぶさ」を見ても明らかなように、試料があれば、分析に絶対の技術を持つ地球化学の独壇場になる。この世界には100前後の元素とその何倍もの同位体、さらにそれらを何通りにも組み合わせた分子から成り立っている。それらの精確な分析値が得られれば、対象を知り尽くした地質屋の根拠の不明確な経験値にも、ありきたりのデータを数だけ増やしてモデルや計算でそれらしく整合性を取った物理屋の理論にも、遅れをとることは無いだろう。
ただし課題は多くある。宇宙惑星とか、固体地球とか、大気水圏とかいうように、最小単位が対象研究分野で分断された日本の地球惑星科学コミュニティーの中で、対象研究分野が多岐にまたがる地球化学の声が大きな位置を占めるのは難しい。さらに地球化学の研究者は、個人レベルでも研究分野が複数にまたがることが珍しく無いが、そうなると個別の研究分野内では、リーダーシップは発揮しにくい。また地球化学会が過去に起こした多くの内ゲバ事件を見ればわかるように、そもそも研究分野が異なる地球化学者間で意見を一つにまとめること自体が非常に難しい。「試料の採取法の発展を後推し」と言ったが、その対象分野を何にするかで揉めるだろう。処方箋は無いし、あればやっているが、とりあえず出来ることは、せめて地球化学コミュニティー内で意見をまとめる努力はすることであろうか。また実績と人望のある地球化学者が、地球惑星科学者に便利に使われること無く、私心を捨てて自らリーダーシップを発揮して行くことも重要だろう。
なおこの一連の話は、「試料があれば、分析に絶対の技術を持つ地球化学の独壇場になる」こと、つまり個別の地球化学者が、最高の分析技術を保持し、また日々発展させていることが前提となっている。金に物を言わせて市販の機器を購入し、業者のセッティングした通りに使うのであれば、少なくとも地球惑星科学を先導することは出来ない。この点で現在の地球化学は問題無いと自負しているが、将来に関しては雲行きが怪しくなって来ているように思う。20-30年ほど前までは、学部で化学を専門とした学生が地球化学を志すケースは多かったが(今回の講演者5名のうち3名が該当)、化学分野の基幹講座の多くから地球化学の教員が姿を消した現在は激減してしまった。分析化学は地球惑星科学的な重要性が高ければ高いほど、実試料への応用まで時間がかかる。地球惑星科学研究を指向する学生を、当面地球惑星科学的な成果は期待出来ない地道な分析化学研究に従事させることは難しく、間もなく日本の地球化学にとって深刻な問題になると思う。この問題も根が深く、処方箋などあるはずも無いが、せめて教育者に回った地球化学者が、時間をかけて自ら分析化学手法を開発することの重要性を、次世代に向けてしっかり教育する必要があるだろう。多数の大学の地球惑星科学系に数人レベルで散らばった現状でこれを実現するのは難しいが、大学間で連携するなど工夫して実現を目指さないといけない。これは地球化学分野というより、地球惑星科学全体の将来のためにきわめて重要であると思う。