日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月25日(月) 09:00 〜 10:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

09:00 〜 09:15

[PPS21-27] 水蒸気大気の圏界面の推定とハビタブルゾーンの内側境界

*大西 将徳1はしもと じょーじ2倉本 圭3高橋 芳幸1石渡 正樹3高橋 康人3林 祥介1 (1.神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.岡山大学大学院自然科学研究科、3.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:水蒸気大気, 放射過程, ハビタブルゾーン, 水の散逸限界

1. はじめに
ハビタブルゾーンの内側境界は, 2つの境界で特徴付けられる. 1つは, 惑星が受け取る日射が, 水蒸気大気の射出限界と等しくなる状態で, 暴走温室限界 (runaway greenhouse limit) と呼ばれる. 惑星が暴走温室限界よりも中心星の近くに存在すると, 惑星が受け取る日射量が惑星放射を上回るため, 惑星の表面付近は暴走温室状態に陥る. そしてやがて海はすべて蒸発してしまう. もう1つの内側境界は, 水の散逸による限界 (water loss limit) と呼ばれ, 惑星表面に長期間水が存在する条件で与えられる. 水蒸気は大気上層で分解され宇宙空間に散逸するため, 水の散逸限界より中心星に近い惑星は, 46億年程度の期間にわたって, 惑星表面に水を保つことができない. 水を長期間保持できるかどうかは, 大気上空の水蒸気の混合比がある閾値を越えるか超えないかによって規定され, 上空の水蒸気量は対流圏界面の温度に依存する.
Kasting 1988, Kopparapu et al, 2013 では, 太陽系を模した条件でハビタブルゾーンの2つの内側限界を推定している. 惑星大気は200[K]となる高度に圏界面が設定され, 圏界面より下層は断熱温度構造, 上層は等温大気が仮定されている. 圏界面を 200[K] に設定することについて, Kasting 1988 では圏界面温度が, 射出限界の値に対して敏感でないことが述べられており, 暴走温室限界の推定には圏界面の位置は重要でない. 一方, 水の散逸限界の推定には, 圏界面の温度が直接影響する. そのため水の散逸限界を推定するためには, 圏界面を放射対流平衡を満たすように決めることが重要である. ただし, 放射対流平衡の温度構造を line-by-line 放射計算により求めることは容易ではない. そこで本研究では, 水蒸気を含む大気について, 上空まで断熱温度勾配を持つ大気を仮定して放射計算を行い, その加熱率分布から圏界面の位置を推定し, 水の散逸限界について考察する.
2. モデル概要
大気は上空まで対流混合していると仮定し, 擬湿潤断熱温度勾配(Nakajima et al., 1992) で温度分布を与えている. 吸収物質は水蒸気のみで, バックグラウンド大気として非吸収物質が存在している. 水蒸気は常に飽和した状態を仮定している. 光学データは, 線吸収は HITRAN2008 (Rothman et al., 2009), 連続吸収は MT_CKD 2.5 (Mlawer et al., 2012), 紫外領域の吸収は Chan et al., 1993 を用いている. line shape は voigt 線形を与えている. 中心星放射は太陽のスペクトルを仮定し, 地表面アルベドは近赤外から高波数領域で 0.2 としている. 放射伝達方程式は2流近似(Toon et al., 1989)を用い, 波数領域 0 - 25000 [cm-1] を波数分解能 0.01[cm-1], 25000 - 100000 [cm-1] を波数分解能 10[cm-1] で計算している.
地表面温度(250 - 400[K])とバックグラウンド大気の量(1e+3, 1e+4, 1e+5, 1e+6, 1e+7 [Pa])をパラメタとし, それぞれのプロファイルについて加熱率の分布から圏界面の位置の推定を行った.
3. 結果
本研究では圏界面は150[K] 付近に推定され, 先行研究よりも低温に圏界面が存在することが示唆された. これは圏界面の水蒸気量がより少なくなることを意味し, 水の散逸限界はより中心星側に位置すると考えられる.