日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT24] 化学合成生態系の進化をめぐって

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、間嶋 隆一(国立大学法人横浜国立大学教育人間科学部)

18:15 〜 19:30

[BPT24-P02] 上部漸深海帯の拡散的メタン湧水―新潟県下部鮮新統田麦川層の例―

*宮嶋 佑典1 (1.京都大学理学研究科)

キーワード:拡散的メタン湧水, 新潟県, 鮮新世, 上部漸深海帯

小さな炭酸塩コンクリーションと冷湧水二枚貝類の化石が散在的に産する露頭の産状は「拡散的湧水(diffuse seep)」と呼ばれ,短命で弱い湧水によって形成されたと解釈されている(Nesbitt et al., 2013).このような産状は炭酸塩にセメントされていない堆積物中に内生または半内生の生物化石をその場で保存し,また湧水がどのようにして透水性の低い堆積物中を拡散するのかを理解する上で重要であるにもかかわらず,大規模なメタン湧水炭酸塩岩体と比べてあまり研究されてこなかった.
日本海側地域では,新第三系の海成層よりシロウリガイ類化石が小さな炭酸塩コンクリーションを伴って産出する場合があり,これらは拡散的冷湧水の産状である可能性がある.本発表では新潟県の下部鮮新統田麦川層に見られる拡散的メタン湧水の産状を報告する.十日町市松之山松口では,越道川に露出する灰色シルト岩中に,多様な形状で中礫サイズの小コンクリーションがシロウリガイ類やツキガイ類,ハナシガイ類化石と共に散在する.コンクリーション及び化石の形状や分布を露頭スケッチによって記録し,またいくつかのコンクリーションの炭素・酸素安定同位体比を分析して露頭スケッチにプロットした.本露頭より産する軟体動物化石は極めて多様な分類群からなっており,シロウリガイ類のような冷湧水二枚貝類の他にも原鰓二枚貝類やタマガイ類,エゾバイ類といった小型腹足類およびツノガイ類からなる.内生のツキガイ類やハナシガイ類は露頭上部で合弁かつ生息姿勢を保った状態で産する.シロウリガイ類は少なくともArchivesica kannoiCalyptogena cf. pacificaの2種からなるが,種構成の27%(n=54)にすぎない.シロウリガイ類が卓越せず,またタマガイ類による捕食痕が見られることは比較的浅い環境を示唆し(cf. Kiel, 2010; Amano et al., 2010),これは軟体動物化石から推定されている田麦川層の堆積環境(上部漸深海帯200-500 m:天野ほか,1991;天野,1994)と矛盾しない.コンクリーションは主に露頭中部より産し,不定形または球状,漏斗型,棲管型の形状のものが見られる.それらは明灰色か,露頭最下部では暗灰色をしており,ミクライト質低Mgカルサイトからなる.炭素同位体比は−46.0~−24.3‰と低く,主に嫌気的メタン酸化(AOM)起源であると考えられる.このことはミクライト中にバイオマーカーpentamethylicosane(PMI)が含まれることからも示唆される.互いに近接して,または露頭の同一層準より産するコンクリーションは差が6‰以内で近い炭素同位体比をもち,このことはそれらが同一のAOM帯で形成されたことを示唆するのかもしれない.以上から,本露頭は前期鮮新世の比較的浅い環境(上部漸深海帯)での拡散的メタン湧水場の露頭であり,湧水はシルト質堆積物中の棲管などの空隙を介して拡散していたと考えられる.本研究のように露頭に散在する各々のコンクリーションの同位体比を分析することで,拡散的湧水場の露頭中で過去のAOM帯を認定することも可能かもしれない.