日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS35] この星は、なぜ地球なのか? -水の役割-

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 201A (2F)

コンビーナ:*島 伸和(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)、巽 好幸(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、大槻 圭史(神戸大学大学院理学研究科)、中川 貴司(海洋研究開発機構数理科学・先端技術研究分野)、片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、中村 昭子(神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、島 伸和(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)

14:45 〜 15:00

[MIS35-17] 上部マントル深部への水の輸送と含水下でのマントル残留岩

*松影 香子1 (1.神戸大学地球惑星科学)

キーワード:含水融解実験, 高温高圧, ウェッジマントル, 斜方輝石, クラトン, X不連続面

マントルの大規模な物質移動とそれに伴う化学分化あるいは均質化を担うのは、主にケイ酸塩メルトや水などの流体である。特に地球内部物質の物性やマグマの発生に大きな影響を及ぼす水は、主に火山活動に伴い地球内部から表層に放出される一方、沈み込み帯で含水鉱物となってプレートと共に地球内部へと戻ってゆく。地球内部、特にウェッジマントル深部の物質に対する水の影響を明らかにするため、マルチアンビル型高温高圧発生装置を用いた含水カンラン岩、含水玄武岩の相平衡実験を行った。その結果をもとに、(1)上部マントル深部へ水がどのように運搬保持されるのか、(2)水がマントル中に流体として放出されたときにマントル物質をどのように変化させるのか、を議論する。地球内部に運ばれる水の多くは、温度上昇と共に脱水し、約2-4 GPa以上の圧力では第2臨界終端点を超えた超臨界流体としてマントルウェッジに放出される。大部分の水はマントル浅部で脱水して地表に流出してしまうが、その一部はさらに深部のマントル遷移層へと運ばれる。そして,ウォズリアイトの方がカンラン石に比べて水の最大固溶量が高いため、もし遷移層が含水化していればマントル対流等によって遷移層の物質が上部マントルへ上昇した時にウォズリアイトが脱水して水を放出すると考えられる。上部マントル物質に対するこのような水の影響を調べるため、水に飽和した系でのレ-ルゾライトの部分融解実験を圧力3-8GPa、温度1100-1600 ℃の範囲で行った[1]。その結果、含水条件下で形成される残留岩は、無水の場合と比較すると、同じ融解度においてカンラン石に乏しく斜方輝石やザクロ石に富み、Mg#も高くなる事がわかった。また、水を含む事によって部分融解開始温度は地球の平均地温勾配の温度よりも有意に低くなるためウェッジマントルの温度でもカンラン岩は含水部分融解を起こしてそれに伴う組成改変を受けると考えられる。つまり、現在の沈み込み帯近傍の上部マントル深部でMg#が高く斜方輝石成分(= SiO2成分)に富んだ“クラトンマントルに類似した”ハルツバーガイトが形成されている可能性が高いと考えられる。白亜紀以前においては、3GPa以上の非常に深い所からマントル捕獲岩を捉えて上がってくるマグマとしてキンバーライトが存在した。しかし現在ではそのような深部起源のマグマは噴出しておらず、現在の上部マントル深部物質を直接手に入れて記載岩石学的にこの仮説を証明するのはかなり難しい。一方、地震学的研究によって、沈み込み帯や南太平洋,南アフリカの一部地域において深さ200-300 kmでなぞの不連続面(X不連続面)が観測されており、斜方輝石の高圧相転移によるものではないかという説がある。含水条件では融け残り側に斜方輝石が多く残存するという実験結果から、このX不連続面の存在が上部マントル深部での局所的な含水部分融解の状況証拠の一つであると考える事も可能である[2]。[1] Matsukage and Kawasaki (2014) Earth, Planets and Space 66, 29. [2] 松影香子 (2015) 地学雑誌、印刷中.