日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2015年5月25日(月) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

18:15 〜 19:30

[SCG60-P02] 北海道地域下の3次元P波異方性速度構造

*鳥本 達矢1趙 大鵬1豊国 源知1北川 弘樹1藤澤 萌人1 (1.東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

キーワード:トモグラフィー, 異方性, 北海道, 沈み込み帯, マントルウェッジ

地震波の伝播速度には方向依存性があり, これを地震波速度異方性と呼ぶ. 速度異方性は, マントル内部では主に造岩鉱物, 特にマントルの動きに伴うかんらん石のもつ結晶格子の選択配向によると考えられている. かんらん石は温度, 圧力, 水分の含有率に依って相転移し, 相によって異方性が異なる.
従来の等方性地震波トモグラフィーでは地下の物質の動きは見られず静止画的にマントルの構造が推定されるが, 異方性及びかんらん石の選択配向を考慮することにより, 地下の物質の動きについて新たな知見が得られると期待される. 速度の異方性を推定する方法としては, 方位の速度依存性を調べる (最も早く伝播する方位のP波速度Vfと最も遅く伝播する方位のP波速度Vsの大小関係を調べる)方位異方性トモグラフィーと, 射出角に依存する速度異方性を調べる (水平方向に伝搬するP波速度Vphと鉛直方向に伝搬するP波速度Vpvの大小関係を調べる) 鉛直異方性トモグラフィーがあるが, 本研究では3次元P波鉛直異方性トモグラフィーを推定した.
我々は沈み込み帯のダイナミクスについて新たな知見を得るために, 基盤地震観測網で記録された大量のP波走時データを用いて, 北海道地域下の地殻及び上部マントルの3次元速度構造を推定した. 本研究では東北大学及び, 防災科学技術研究所Hi-netのP波到達時刻の読み取り値を用いた. 研究領域である北緯40°~46°, 東経138°~147°に3次元格子点を配置し, P波等方性トモグラフィー及びP波鉛直異方性トモグラフィーを行い, 3次元速度構造と異方性の向き及び強さの関係を調べた. また先行研究との比較も行った. 比較する先行研究の一つは東北及び九州のP波方位・鉛直異方性トモグラフィー法に関する研究 (Wang & Zhao, 2013)で, 北海道地域下と東北, 九州地方における沈み込み帯での大局的な異方性の特徴を推定した. またもう一つは北海道下のP波方位異方性トモグラフィー法に関する研究 (Liu, Zhao & Li, 2013)である.
本研究では, 観測領域内の333点の観測点で観測された地震を使用した. 観測された地震の内, 震源の決定精度を考慮し, 震源が北緯40°~46°, 東経138°~140°, 深さ0 km~350 kmにある地震でかつ, 震央が陸域または海岸から20 km以内にある地震のみを解析に使用し, 使用した地震の総数は2030個, P波走時データの総数は約17万個となった.
3次元等方性, 及び異方性速度構造の推定には, P波鉛直異方性トモグラフィーを用いたが, 鉛直異方性トモグラフィーでは六方対称軸が鉛直の異方性媒質を仮定し, 走時残差が小さくなるように等方性速度及び異方性パラメータの推定を行った. 速度構造を推定するための格子点は等方性成分では緯度経度ともに0.2°間隔, 異方性成分は0.4°間隔で配置し, 深さ方向については等方性成分, 異方性成分共に, 深さ 8, 25, 40, 65, 90, 120, 150, 180, 200, 250, 300, 350 km に配置した. 初期速度構造は一次元速度構造JB modelを使用し, 太平洋スラブ内の等方性速度は+4%の高速度異常を仮定した.

本研究で得られた等方性及び異方性速度構造の特徴は以下の通りである.

1. 樽前山や十勝岳, 有珠山などの活火山下に顕著な低速度異常が見られ, これはスラブからの脱水に起因するメルトによるものと考えられる.

2. 活火山下の地域とマントルウェッジに顕著な低速度異常体が見られ, その中では鉛直方向のP波速度が速いことが分かった. このことは, 東北地方と九州地方のP波鉛直異方性の結果 (Wang & Zhao, 2013)と調和的であり, 高温の島弧マグマの上昇を反映しているものと考えられる.

3. 沈み込んでいる太平洋プレートでは, 水平方向のP波速度が速く, 東北地方及び九州地方の異方性の結果 (Wang & Zhao, 2013)と一致した.

4. 有珠山下の低速度異常体において方位異方性トモグラフィー (Liu, Zhao & Li, 2013)では速度異方性が見られなかったが, 本研究では強い鉛直異方性が見られた. このことから, 有珠山下のマントルウェッジに高温のマントル上昇流が存在すると推定される.

参考文献
Liu, X., D. Zhao, S. Li (2013) Seismic heterogeneity and anisotropy of the southern Kuril arc: Insight into megathrust earthquakes. Geophys. J. Int. 194, 1069-1090.
Wang, J., D. Zhao (2013) P-wave tomography for 3-D radial and azimuthal anisotropy of Tohoku and Kyushu subduction zones. Geophys. J. Int. 193, 1166-1181.