日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP43] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2015年5月24日(日) 14:15 〜 16:00 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*石井 和彦(大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学専攻)、河上 哲生(京都大学大学院理学研究科)、座長:池田 剛(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、東野 文子(京都大学大学院理学研究科)

15:30 〜 15:45

[SMP43-06] 変成作用の継続時間と三波川変成コンプレックスのジルコンU-Pb年代 ー四国西部20万分の1地質図幅「松山」地域の例ー

*宮崎 一博1脇田 浩二2檀原 徹3岩野 英樹3平田 岳史4 (1.産総研 地質情報研究部門、2.山口大学 理学部、3.京都フィッショントラック、4.京都大学 理学部)

キーワード:三波川, 変成作用, 変成岩, ジルコン, ウラン鉛年代

高圧型変成岩の原岩が海溝付近で集積し,反応と変形が活発に起こる沈み込み帯深部(変成場)に持ち込まれ,そこから解放されるまでの時間スケールには不明な点が多い.特に,物質が変成場に持ち込まれて解放されるまでの時間スケール(変成作用の継続時間)は,沈み込み帯における物質循環及び流体フラックスを推定するために重要である.以下では,四国西部,20万分の1地質図幅「松山」地域の三波川変成コンプレックスのジルコンU-Pb年代から示唆される変成作用の継続時間について報告する.なお,砕屑性ジルコンの最も若いU-Pb年代集団(tzrn-yc)とフェンジャイトのK-Ar年代(tphn)の差が変成作用の継続時間の最大値を与えるとする.
 ジルコンU-Pb年代測定を行った試料は,三波川変成コンプレックス伊予ユニット上部と下部の砂泥質岩である.また,フェンジャイトK-Ar年代の測定も行った.伊予ユニットは原岩岩相の違いにより,砂泥質岩からなる下部,主に苦鉄質岩からなる中部,泥質岩と苦鉄質岩からなる上部に細分できる.比較のため,より南方に分布する三波川変成コンプレックス大洲ユニットとその見かけ上位の弱変成南部秩父帯ジュラ紀付加コンプレックス斗賀野ユニット(N),さらに南に分布する非変成の斗賀野ユニット(S)とその見かけ下位の四万十帯白亜紀付加コンプレックス半山ユニットの砂質岩のジルコンU-Pb年代測定も行った.
 斗賀野ユニット(N)と(S)の砕屑性ジルコンU-Pb年代頻度分布パターン(H(tzrn))はほぼ同一であり,tzrn-ycは174.7±1.9と181.6±1.4 Maであった.伊予ユニット上部,大洲ユニット,半山ユニットの砂泥質岩のH(tzrn)もほぼ同一であり,tzrn-ynは111.2±2.9,110.3±4,111.3±2.4 Maであった.これら3試料の砂泥質岩は同時期にほぼ同じ環境で堆積したものと推定できる.一方,伊予ユニット下部は上記3試料のH(tzrn)とパターンが異なり,tzrn-ycも89±1.0 Maであった.伊予ユニット上部のtphnは83.8±2.1 Ma,伊予ユニット下部は86.9±2.2 Maであった.
 以上の結果から求められる変成作用継続時間の最大値は,伊予ユニット上部で27Myr,伊予ユニット下部で2Myrとなり,同一ユニット内で大きく異なる.伊予ユニット上部の試料では,砕屑性ジルコンの周囲に幅10-30ミクロンでTh/U比の低い変成リムが生じている.この変成リムのU-Pb年代は94.4±1.2 Maである.変成リムは三波川変成作用ピーク時に生じたと仮定し,これとフェンジャイトK-Ar年代の差が変成作用継続時間の最小値を与えるとすると,その値は11Myrとなる.従って,伊予ユニット上部は,11-27 Myrの時間スケールで,変成場に滞留していた可能性が指摘できる.これに対し,下部は2Myr以内である.
 伊予ユニット上部はざくろ石帯の変成作用を被っており,伊予ユニット中部及び下部より高温高圧条件を経験している.変成場を粘性流体からなる一定の広がりを持った空間と考え,粘性流体シミュレーションを行うと,高温高圧下で反応が促進することで粘性率が低くなった部分が剪断変形により引き延ばされ,より浅部で変成場にもたらされたばかりの部分と接合することが予想される.今回得られた結果は,沈み込み帯深部の変成作用の継続時間は,同一と認識されるユニット内においても,見かけの上下により2Myr以内から11-27Myrと大きく異なることを示している.