日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

2015年5月28日(木) 09:00 〜 10:30 304 (3F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:大倉 敬宏(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、宮城 磯治(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)

09:15 〜 09:30

[SVC45-05] 阿蘇火山中岳2014~2015年噴火の推移と噴出物(速報)

*宮縁 育夫1下司 信夫2横尾 亮彦3 (1.熊本大学教育学部、2.産業技術総合研究所活断層・火山研究部門、3.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:阿蘇火山, 中岳, 灰噴火, ストロンボリ式噴火, 噴出物

阿蘇火山中岳では,2014年1月以降,複数回のごく小規模噴火が認められたが,11月25日に本格的な噴火活動へと移行し,2月1日時点においてもその活動は継続中で,一連の活動によって中岳火口の南東方を中心とした地域に噴出物が堆積している.筆者らは本格的な噴火が始まる以前から火口内の状況や噴出物に関する現地調査を行っているが,本発表では主要なイベントである2014年11月25日~29日と12月9日~11日の噴火活動と噴出物について報告する.
2014年11月25日~29日にかけての活動では中岳火口の東側にあたる熊本県阿蘇市波野から高森町および大分県竹田市(同火口の東方約30 km)の一部にかけての範囲で降灰が確認された.筆者らの噴出物調査によると,このイベントの火山灰は中岳第1火口から東方向と南方向の2つの主軸をもって分布していた.こうした分布は,11月25日15時頃までの風向(南西~北西)および25日16時~27日17時頃までの風向(おもに北)とも調和している.また,北東方向にもやや多く分布する傾向があり,これは27日18時~29日未明までの卓越風(おもに南西~南風)によるものと考えられる.11月29日午後の火口近傍域調査では,南西側から南側にかけての火口縁において厚さ4~5 cmの噴出物が観察され,表面には最大径30 cm程度の発泡のよいスコリアが散在していた(おもに11月26日13時半以降27日朝にかけて噴出)が,噴出物の大部分は砂サイズの黒色~暗灰色の火山灰である.南側火口縁では40 kg/m2程度の火山灰の堆積が認められた.火山灰の各等重量線が囲む面積と重量との関係から,11月25日~29日に噴出した火山灰の総量は約15万トンと概算された.
2014年12月9日~11日にかけて阿蘇カルデラ西方域にまで火山灰を飛散させる活動が認められた.その火山灰は中岳第1火口から北方向と東方向への分布も認められるが,噴出物の主体は南西方向へ分布する火山灰である.これは,12月9日夕方から夜にかけての強い北東風の影響を受けたものと考えられる.その後,12月10日は南風,11日には西風が卓越しており,こうしたことは火山灰の分布と調和している.12月10日の調査で中岳第1火口南西側の監視所付近では約2.7 kg/m2,さらに西方へ1.2 km離れた山上広場付近でも約2 kg/m2の降灰が確認された.火山灰の各等重量線が囲む面積と重量との関係から,このイベントによる火山灰の総量は約7万トンと概算された.12月9日~11日の活動による噴出物の大部分は砂サイズの火山灰であるが,スコリア質火山弾の放出も認められた.この火山弾は北西~南西側火口縁で明瞭であるが,山上広場周辺にも散在しており,中岳第1火口から南西へ4 km付近まで追跡することができた.火山弾は中岳第1火口の西北西縁においては地面を埋めるほどの密度で堆積しており,火口から西南西へ1.2 km離れた山上広場でも径3~4 cmに達するスコリアが確認された.この期間に噴出した火山灰は火口から南西方向に主軸をもって分布しており,スコリアの分布もそれと調和しているが,スコリアの最大粒径の分布主軸は西北西方向である.この活動で噴出した火山弾は非常によく発泡したスコリアであり,下面は偏平で上面が膨らんでいるものが多い.また,西北西火口縁では全体がつぶれて偏平になった火山弾も観察され,最大のものの長径は45 cmに達していた.
2014年11月25日~29日および12月9日~11日の活動で噴出した火山灰には黒色岩片や結晶片も含まれるが,構成物の大部分は黒色から褐色を呈する発泡したガラス粒子である.活動初期の11月25日~26日頃に噴出した火山灰中には結晶化の進んだ黒色ガラス粒子が多かったが,12月9日~11日火山灰では褐色の光沢ガラス粒子の割合が明らかに増加していた.ガラス粒子の形態としては,黒色ガラス片では多面体型,褐色ガラスではスコリア型が多いように見える.また,褐色から淡褐色ガラスの一部には,低粘性のマグマが引き伸ばされて形成された紡錘型のガラス片やペレーの毛も認められた.
阿蘇火山中岳における2014年11月25日以降の活動は,第1火口底のほぼ中央付近に形成された直径20~30 m程度の火孔(気象庁によって141火孔と命名)から火山灰を継続的に放出する灰噴火を主体としているが,間欠的にスコリア質火山弾を放出するストロンボリ式噴火も同時に発生している.前回の本格的な活動である1989~1990年の噴火では,噴火開始からストロンボリ式噴火に至るまで数ヶ月の期間を有している.一方,今回の活動では噴火開始直後からストロンボリ式噴火が認められたことが大きな特徴である.