10:15 〜 10:30
[SSS26-06] 長大距離地震波動伝播シミュレーションのための地球の曲率を考慮した計算スキーム
キーワード:地震波動, シミュレーション, 差分法
例えば日本列島全体域を地震波動伝播シミュレーションのターゲットにする場合,水平距離で約3千キロメートル,深さ方向にも数百キロメートルの大規模領域を扱う必要がある.このような広大で深い領域(ここでは「超広域スケール」と呼ぶ)をモデル化する場合,ローカルな領域の地震動シミュレーションで多用されている「平たい地球」モデルではなく,地球の曲率を考慮した「丸い地球」のモデルを採用するのが自然である.ただ,この規模の領域は,全球ではなく,球殻の一部分にすぎない.従来は球殻の一部であっても球座標系(r, θ, φ)を用いて解かれることがほとんどで,デカルト座標系が使われるローカルな「平たい地球」モデルの計算との間に大きなギャップがあった.これまでは計算機能力の問題もあって「丸い地球」モデルの地震波動シミュレーションと「平たい地球」モデルのシミュレーションでは異なる周波数帯をターゲットに独立に行われてきたため,そのギャップはほとんど問題にならなかった.しかし,最近の超並列スパコンに代表されるハードの進展のお蔭で,両モデルともに同じ周波数帯をターゲットにしたシミュレーションが計算機能力的には可能になりつつある.ただ,現時点では,上述のギャップによって「丸い地球」モデル(「超広域スケール」)の計算と局所的な「平たい地球」モデル(ローカルなスケールのモデル)の計算との連携は容易ではない.「超広域スケール」の計算における球座標系の利用は,小スケールの詳細な構造モデルとの階層化やマルチスケール計算には適していないためである.そこで,今回我々は,球座標系の支配方程式をローカルな疑似デカルト座標系(x, y, z)で表現して,それを差分法で解くスキームを新たに開発した.「丸い地球」モデル用の疑似デカルト座標系の方程式は,形式的にデカルト座標系の「平たい地球」モデル用の方程式にたいへんよく似ており,「平たい地球」モデル用の計算コードの一部を書き換え・付加するだけで実装可能である.我々は,現在ローカルスケールの地震動シミュレーション等で多用されているデカルト座標系の3次元スタガード格子差分法のコードを一部書き換えるだけで,「丸い地球」モデル用の疑似デカルト座標系スキームを実装した.スキーム自身の検証には,実際の地球よりも曲率の効果が大きい,地球より半径の小さな天体における地震波動シミュレーションも予定している.