17:15 〜 17:30
[BAO01-06] 部分循環湖貝池の嫌気的水塊下でのリンと鉄の初期続成作用
キーワード:リン, 鉄, 初期続成作用, 嫌気的有光層, 嫌気的水塊
鹿児島県上甑島貝池は、海洋と砂州で隔てられた部分循環湖である。砂州深部から浸入する海水と、低塩分の表層水との密度差によって湖水の経年的な成層が生じている。このため湖の深部は有機物分解により嫌気的な環境を呈する。水深4~5mに存在する湖水の酸化還元境界には、嫌気的な光合成を行う紅色硫黄細菌が生息している。堆積物表層には、主に緑色硫黄細菌によって構成されているマット状構造が見られる (Nakajima et al., 2003)。このような環境は、大気中の酸素濃度の急上昇前で還元的な環境が卓越していたとされる約24億年以前や、白亜紀OAEのモデルと見なすことができ、過去に存在した海洋環境を理解する手がかりとなりうる(Oguri et al., 2003)。
本研究で着目したリンは生体必須元素であり、生物の一次生産の制限栄養元素 (limiting nutrient) でもある。また鉄はredox-sensitive elementであり、溶存態のFe(Ⅱ)が酸化されると鉄酸化物が沈殿するが、その際にリンを吸着する。そのためリンも初期続成作用の過程で酸化還元状態の変化に敏感に影響を受け、海洋の還元化が進むと負のフィードバックを働かせる。すなわちリンの堆積物への埋没は大気中の酸素濃度と関連している可能性がある(Van Cappellen et al., 1996)。リンの初期続成作用に関する研究は、現代の酸化的海洋で多くなされており、本研究では嫌気的水塊下の貝池堆積物 (KAI4コア; Yamaguchi et al., 2010)に着目した。リン及び鉄の存在形態別分析を行い、酸化的水塊下での地球化学的挙動との比較、OAEなど過去の無酸素環境の復元への応用を目的とした。
堆積物試料中のリンはSEDEX法 (Ruttenberg, 1992)を参考に、Pabs (吸着)、PFe (鉄結合態)、Pauth (自生)、Pdet (砕屑性)、Porg (有機態)の5形態に、鉄についてはPoulton et al. (2005)を参考に、FeHCl (HCl可溶)、Fecarb (炭酸塩)、Feox (酸化物)、Femag (磁鉄鉱)、Feresi (残渣)の5形態にそれぞれ分画、定量した。
貝池最深部の11.5mから採取されたKAI4堆積物の表層において、全リン中の割合が最も多かったのはPorgであり、深さ約5cmで急激な減少が見られた。二番目に割合が多かった形態はPFeであったが、PFe、Feoxはいずれも堆積物表層でピークは見られなかった。これは、鉄酸化物の自生の沈殿は生じていないことを示唆する。また、Fepyは堆積物最表層では検出されず、深度を増すごとに存在量が増加した。
酸素が溶存する現在の海洋では、堆積物表層で生じるリンの鉄酸化物への吸着・埋没と、堆積物内部で生じる鉄酸化物の還元に伴うリンの間隙水への再放出、というリン-鉄サイクルにより、間隙水中のリン酸濃度は高く保たれ、自生アパタイトの沈殿が促進される(Slomp et al., 1996)。しかし、湖底に酸素が溶存しない貝池では堆積物表層の鉄酸化物の存在量が少ないため、間隙水中のリン濃度は自生アパタイトを形成する程高くなく、堆積物深度が増してもPauthはほとんど増加しない。さらに、PFe/Porg比とPauthの形成の度合いが正の相関を持つことから、PFeと Porgの量比がリンの埋没に深く関連していることが推測される。主に有機物分解から生じたリンは間隙水中に留まることなく水塊中に放出されていると考えられる。 また、堆積物表層における鉄酸化物の沈殿は生じていないが、Fepyの沈殿も見られなかった。その代わり、Fecarbの小さなピークが見られたことから、堆積物表層付近ではFepyを生成するほどのH2Sは存在しないことが示唆される。Fepyの存在量は深度を増すごとに増加し、それにしたがって過去の酸化還元状態を示す指標のDOP(degree of pyritization; Fepy/(Fepy+FeHCl))やFeHR/Fetotの値も増加する。
貝池同様、過去の嫌気的環境で堆積したリンも大部分が水塊に戻り、結果として嫌気的水塊中に蓄積したリンは微生物活動や一次生産の強化、さらに酸化還元状態の変化のトリガーとなっていたことが示唆される。
本研究で着目したリンは生体必須元素であり、生物の一次生産の制限栄養元素 (limiting nutrient) でもある。また鉄はredox-sensitive elementであり、溶存態のFe(Ⅱ)が酸化されると鉄酸化物が沈殿するが、その際にリンを吸着する。そのためリンも初期続成作用の過程で酸化還元状態の変化に敏感に影響を受け、海洋の還元化が進むと負のフィードバックを働かせる。すなわちリンの堆積物への埋没は大気中の酸素濃度と関連している可能性がある(Van Cappellen et al., 1996)。リンの初期続成作用に関する研究は、現代の酸化的海洋で多くなされており、本研究では嫌気的水塊下の貝池堆積物 (KAI4コア; Yamaguchi et al., 2010)に着目した。リン及び鉄の存在形態別分析を行い、酸化的水塊下での地球化学的挙動との比較、OAEなど過去の無酸素環境の復元への応用を目的とした。
堆積物試料中のリンはSEDEX法 (Ruttenberg, 1992)を参考に、Pabs (吸着)、PFe (鉄結合態)、Pauth (自生)、Pdet (砕屑性)、Porg (有機態)の5形態に、鉄についてはPoulton et al. (2005)を参考に、FeHCl (HCl可溶)、Fecarb (炭酸塩)、Feox (酸化物)、Femag (磁鉄鉱)、Feresi (残渣)の5形態にそれぞれ分画、定量した。
貝池最深部の11.5mから採取されたKAI4堆積物の表層において、全リン中の割合が最も多かったのはPorgであり、深さ約5cmで急激な減少が見られた。二番目に割合が多かった形態はPFeであったが、PFe、Feoxはいずれも堆積物表層でピークは見られなかった。これは、鉄酸化物の自生の沈殿は生じていないことを示唆する。また、Fepyは堆積物最表層では検出されず、深度を増すごとに存在量が増加した。
酸素が溶存する現在の海洋では、堆積物表層で生じるリンの鉄酸化物への吸着・埋没と、堆積物内部で生じる鉄酸化物の還元に伴うリンの間隙水への再放出、というリン-鉄サイクルにより、間隙水中のリン酸濃度は高く保たれ、自生アパタイトの沈殿が促進される(Slomp et al., 1996)。しかし、湖底に酸素が溶存しない貝池では堆積物表層の鉄酸化物の存在量が少ないため、間隙水中のリン濃度は自生アパタイトを形成する程高くなく、堆積物深度が増してもPauthはほとんど増加しない。さらに、PFe/Porg比とPauthの形成の度合いが正の相関を持つことから、PFeと Porgの量比がリンの埋没に深く関連していることが推測される。主に有機物分解から生じたリンは間隙水中に留まることなく水塊中に放出されていると考えられる。 また、堆積物表層における鉄酸化物の沈殿は生じていないが、Fepyの沈殿も見られなかった。その代わり、Fecarbの小さなピークが見られたことから、堆積物表層付近ではFepyを生成するほどのH2Sは存在しないことが示唆される。Fepyの存在量は深度を増すごとに増加し、それにしたがって過去の酸化還元状態を示す指標のDOP(degree of pyritization; Fepy/(Fepy+FeHCl))やFeHR/Fetotの値も増加する。
貝池同様、過去の嫌気的環境で堆積したリンも大部分が水塊に戻り、結果として嫌気的水塊中に蓄積したリンは微生物活動や一次生産の強化、さらに酸化還元状態の変化のトリガーとなっていたことが示唆される。