18:15 〜 19:30
[SVC46-P03] 富士山貞観噴火マグマ中の斜長石斑晶の組成累帯構造解析:マグマだまりプロセスへの制約
キーワード:富士火山, 斜長石, 組成累帯構造, マグマだまり, 貞観噴火
富士山貞観噴火は,西暦864-866年にかけて富士山北西麓でおこった歴史時代最大の噴火である.この噴火では,比較的均一で分化した玄武岩質マグマが1.3㎞3以上も噴火した.更に,その大部分は噴火初期の2か月間に噴出したことから,そのマグマだまりは比較的大規模であったと予想できる.それでは,このマグマだまり中で,マグマはどのようなプロセスを経て噴火に至ったのだろうか?
本研究では,貞観噴火の噴出物に含まれる斜長石斑晶に注目する.斜長石の化学組成は,共存するメルトの化学組成,含水量,温度,圧力に敏感に応答して変化する.これに加え,結晶中の元素拡散速度が遅い.これらの性質から,斜長石斑晶の化学組成ゾーニングは,その結晶が経験してきたマグマ状態の変化をよく記録していると考えられており,これを詳細に読み解くことで,マグマが経てきたプロセスを知ることが可能となる.そこで本研究では,貞観噴火噴出物中に含まれる斜長石斑晶について,BSE画像観察による化学組成ゾーニングパターンの観察を行い,その分類を行った.更に,代表的なタイプの斜長石についてその形成過程を考察し,これに基づいてマグマが噴火に至るまでに経てきたプロセスの解明を試みた.
本研究では貞観噴火噴出物のうち,長尾山溶岩と長尾山スコリアに含まれる斜長石斑晶を対象とした.静岡大学道林研究室のSEMを用い,長尾山溶岩と長尾山スコリアに含まれる斜長石斑晶それぞれ187個,79個についてBSE画像を撮影し,肉眼観察および画像解析ソフトImageJを用いた明度プロファイル分析に基づいて分類した.また,斜長石のBSE画像の示す明度変化の原因を特定するため,代表的な粒子について元素マッピングも行った.更に,代表的な斜長石斑晶については,東京大学地震研究所のEPMA(JEOL8800R)を用いて化学組成分析も行った.
斜長石のBSE像と元素マッピングの結果を比較したところ,BSE像の明度はAn値[=Ca/(Ca+Na)]のみに依存することがわかった.ゾーニングパターン観察の結果,斜長石斑晶を以下の5タイプに分類した;(A)Anに富むコアを有し,リムはノーマルゾーニングを示すもの,(B)均質でAnに乏しいコアとノーマルゾーニングしたリムをもち,コアとリムの境界で急激なリバースゾーニングを示すもの,(C)波状累帯構造を示すもの(振動回数によって更に細分できる),(D)ゾーニングパターンが不規則なもの,(E)均質なもの.このうち,タイプDとEは稀であり,Bがもっとも多かった.リムがリバースゾーニングしている斜長石はみられなかった.タイプBの斜長石では,波状のコア-リム境界や,コア-リム境界に沿うメルト包有物の配列が確認できた.タイプA斜長石のコア部分は,タイプB斜長石のどの部分よりもAnに富んでいた.
タイプAの斜長石は,単純な結晶作用によって形成過程を説明できる.タイプBのゾーニングパターンは,その最大An値がタイプA斜長石のコア部分よりも低An値であるため,マグマ混合によって形成されたと言える.これは,波状のコア-リム境界や,コア-リム境界に沿うメルト包有物の配列などの組織と調和的である.タイプBのコアが最外殻リムよりもAn成分に乏しいことから,コア部分が共存したメルトは石基ガラスよりも分化していたと考えられる.タイプCの斜長石は,マグマ混合と冷却・結晶作用の繰り返しによってその成因を説明できる.このタイプのうち同じ振動回数を示すものの割合が少ないのは,時間とともに噴出・沈降によって取り去られるためだろう.このような結晶が含まれることから,このマグマだまりはマグマの噴出・最充填を繰り返しつつ長期間維持されていると考えられる.ほぼすべての結晶でリム部はノーマルゾーニングを示すことから,この部分は噴火の際に形成されたと考えられる.タイプB斜長石でリバースゾーニング後すぐに最外殻リムまで連続的なノーマルゾーニングに転じることから,マグマ混合後まもなく噴火がおきた可能性がある.
本研究では,貞観噴火の噴出物に含まれる斜長石斑晶に注目する.斜長石の化学組成は,共存するメルトの化学組成,含水量,温度,圧力に敏感に応答して変化する.これに加え,結晶中の元素拡散速度が遅い.これらの性質から,斜長石斑晶の化学組成ゾーニングは,その結晶が経験してきたマグマ状態の変化をよく記録していると考えられており,これを詳細に読み解くことで,マグマが経てきたプロセスを知ることが可能となる.そこで本研究では,貞観噴火噴出物中に含まれる斜長石斑晶について,BSE画像観察による化学組成ゾーニングパターンの観察を行い,その分類を行った.更に,代表的なタイプの斜長石についてその形成過程を考察し,これに基づいてマグマが噴火に至るまでに経てきたプロセスの解明を試みた.
本研究では貞観噴火噴出物のうち,長尾山溶岩と長尾山スコリアに含まれる斜長石斑晶を対象とした.静岡大学道林研究室のSEMを用い,長尾山溶岩と長尾山スコリアに含まれる斜長石斑晶それぞれ187個,79個についてBSE画像を撮影し,肉眼観察および画像解析ソフトImageJを用いた明度プロファイル分析に基づいて分類した.また,斜長石のBSE画像の示す明度変化の原因を特定するため,代表的な粒子について元素マッピングも行った.更に,代表的な斜長石斑晶については,東京大学地震研究所のEPMA(JEOL8800R)を用いて化学組成分析も行った.
斜長石のBSE像と元素マッピングの結果を比較したところ,BSE像の明度はAn値[=Ca/(Ca+Na)]のみに依存することがわかった.ゾーニングパターン観察の結果,斜長石斑晶を以下の5タイプに分類した;(A)Anに富むコアを有し,リムはノーマルゾーニングを示すもの,(B)均質でAnに乏しいコアとノーマルゾーニングしたリムをもち,コアとリムの境界で急激なリバースゾーニングを示すもの,(C)波状累帯構造を示すもの(振動回数によって更に細分できる),(D)ゾーニングパターンが不規則なもの,(E)均質なもの.このうち,タイプDとEは稀であり,Bがもっとも多かった.リムがリバースゾーニングしている斜長石はみられなかった.タイプBの斜長石では,波状のコア-リム境界や,コア-リム境界に沿うメルト包有物の配列が確認できた.タイプA斜長石のコア部分は,タイプB斜長石のどの部分よりもAnに富んでいた.
タイプAの斜長石は,単純な結晶作用によって形成過程を説明できる.タイプBのゾーニングパターンは,その最大An値がタイプA斜長石のコア部分よりも低An値であるため,マグマ混合によって形成されたと言える.これは,波状のコア-リム境界や,コア-リム境界に沿うメルト包有物の配列などの組織と調和的である.タイプBのコアが最外殻リムよりもAn成分に乏しいことから,コア部分が共存したメルトは石基ガラスよりも分化していたと考えられる.タイプCの斜長石は,マグマ混合と冷却・結晶作用の繰り返しによってその成因を説明できる.このタイプのうち同じ振動回数を示すものの割合が少ないのは,時間とともに噴出・沈降によって取り去られるためだろう.このような結晶が含まれることから,このマグマだまりはマグマの噴出・最充填を繰り返しつつ長期間維持されていると考えられる.ほぼすべての結晶でリム部はノーマルゾーニングを示すことから,この部分は噴火の際に形成されたと考えられる.タイプB斜長石でリバースゾーニング後すぐに最外殻リムまで連続的なノーマルゾーニングに転じることから,マグマ混合後まもなく噴火がおきた可能性がある.