17:42 〜 17:45
[SCG59-P05] 浮力駆動されるクラックの形・伝播様式・速度のパラメータ依存性
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:マグマ上昇, クラック伝播, 粘弾性, 流体粘性率, 浮力
はじめに:マグマが上昇する過程で周囲の岩石のレオロジーは変化する。このためアセノスフェアでは粘性変形しマグマはダイアピルとして上昇する一方、リソスフェアでは弾性破壊しダイク貫入により上昇する(Rubin,1995)。それでは粘性変形と弾性破壊の遷移領域ではマグマはどのように上昇するのだろうか。私達は寒天の硬さを幅広く変えたモデル実験によりこの遷移領域における浮力駆動されるクラックの研究を進めている(Sumita and Ota, 2011)。本発表ではクラックの形、伝播様式、速度に着目して主としてマグマの粘性率が粘弾性体中のマグマ輸送に与える影響について調べた実験結果について報告する。
実験方法:(1)使用する寒天のレオロジー測定、(2)注入実験、の2つを行う。注入実験は直径160mm、長さ250、500mmのアクリル円柱内の寒天(母岩)にCsCl水溶液に増粘剤を加えたもの(マグマ)を上部からシリンジを用いて注入して行う。その際、注入する体積を1ml、注入速度を1ml/sに固定し、寒天との密度差は0.580と0.770g/mlの2通りで行った。実験パラメータとして寒天の濃度を0.06~0.5wt%、注入流体の粘性率を10^-3~1300Pa・sと6桁変化させた。寒天の濃度は1桁変えることで降伏応力が3桁、剛性率が2桁変化する。クリープ試験により濃度の高い寒天(>0.1wt%)はバネとフォークトモデルを直列につないだ粘弾性モデル、低い寒天(<0.1wt%)はバーガーズモデルで近似できる。実験は直交する2方向と容器下方からビデオカメラで撮影し、観察する。以下、粘性率とは注入流体のものを指す。
結果:クラックの形・伝播様式・速度に着目して以下の3つのレジームに分けた。Ⅰ:形が2D(板状)であり、直進し、停止距離が短い。クラックの伝播距離(z)を時間の冪乗則の形(z∝t^n)で求めた冪の値(n)はn~1/5であり、速度が粘性率(η)に対して1/ηに比例する傾向を持つ。Ⅱ:形が2Dと3D(頭が膨れたもの)の遷移状であり、伝播中に曲がるか、蛇行し、伝播則の冪は1/3<n<1である。蛇行するものは粘性率を上げると、蛇行の振幅が小さくなり直線的となる。これはSumita and Ota (2011)で報告された注入流体の密度を小さくした場合と同じ傾向である。速度はⅠとⅢとの中間である。Ⅲ:クラックの形は3Dであり、直進し、停止距離は長い。伝播則の冪はn~1であり、速度は粘性率にあまり依存しない。
考察:ⅠとⅡ、ⅡとⅢのレジーム境界は、大局的には無次元の浮力B = -(ΔρgV^1/3)/G(Δρ:密度差、g:重力加速度、V:クラック頭の体積)で決まる。レジームⅠ-ⅡはB~1程度で遷移する。ただしより詳しくは流体の粘性率が大きくなると、臨界B値が大きくなる傾向がある。これは粘性率が大きくなるとクラックの伝播速度が遅くなり、クラックの尾に流体が残りやすく、クラック頭の体積が小さくなり、実効的なB値が小さくなるためと理解できる。クラックの伝播速度はⅠのレジームではチャネルフロー速度(n=1/3:Taisne et al. (2011))と同程度かそれ以下、Ⅲのレジームではストークス沈降速度(n=1)及び横波速度と同程度であり、Ⅱのレジームではその中間であった。従って一定体積、密度下では、粘性率が高い程、レジームⅠからⅢに移行するに従い、速度が大きく増大する。また以上の結果は流体の速度、母岩の変形速度ばかりでなく、破壊伝播速度(~横波速度)が律速していることを示している。実際、既存のクラックがある場合、伝播速度は既存のクラックがない場合に比べて速くなることを確認した。レジームⅡを特徴付ける伝播経路の蛇行は粘性率が高くなると消滅した。これは蛇行が起きるためにはB~1に加えて、臨界速度(あるいは臨界レイノルズ数)が存在することを示唆している。
引用文献:
Rubin, A. M., 1995, Ann. Rev. Earth Planet. Sci, 23, 287-336.
Sumita, I. and Y. Ota, 2011. Earth Planet. Sci. Lett., 304, 337-346.
Taisne, B. et al., 2011, Bull. Volcanol., 73, 191-204.
実験方法:(1)使用する寒天のレオロジー測定、(2)注入実験、の2つを行う。注入実験は直径160mm、長さ250、500mmのアクリル円柱内の寒天(母岩)にCsCl水溶液に増粘剤を加えたもの(マグマ)を上部からシリンジを用いて注入して行う。その際、注入する体積を1ml、注入速度を1ml/sに固定し、寒天との密度差は0.580と0.770g/mlの2通りで行った。実験パラメータとして寒天の濃度を0.06~0.5wt%、注入流体の粘性率を10^-3~1300Pa・sと6桁変化させた。寒天の濃度は1桁変えることで降伏応力が3桁、剛性率が2桁変化する。クリープ試験により濃度の高い寒天(>0.1wt%)はバネとフォークトモデルを直列につないだ粘弾性モデル、低い寒天(<0.1wt%)はバーガーズモデルで近似できる。実験は直交する2方向と容器下方からビデオカメラで撮影し、観察する。以下、粘性率とは注入流体のものを指す。
結果:クラックの形・伝播様式・速度に着目して以下の3つのレジームに分けた。Ⅰ:形が2D(板状)であり、直進し、停止距離が短い。クラックの伝播距離(z)を時間の冪乗則の形(z∝t^n)で求めた冪の値(n)はn~1/5であり、速度が粘性率(η)に対して1/ηに比例する傾向を持つ。Ⅱ:形が2Dと3D(頭が膨れたもの)の遷移状であり、伝播中に曲がるか、蛇行し、伝播則の冪は1/3<n<1である。蛇行するものは粘性率を上げると、蛇行の振幅が小さくなり直線的となる。これはSumita and Ota (2011)で報告された注入流体の密度を小さくした場合と同じ傾向である。速度はⅠとⅢとの中間である。Ⅲ:クラックの形は3Dであり、直進し、停止距離は長い。伝播則の冪はn~1であり、速度は粘性率にあまり依存しない。
考察:ⅠとⅡ、ⅡとⅢのレジーム境界は、大局的には無次元の浮力B = -(ΔρgV^1/3)/G(Δρ:密度差、g:重力加速度、V:クラック頭の体積)で決まる。レジームⅠ-ⅡはB~1程度で遷移する。ただしより詳しくは流体の粘性率が大きくなると、臨界B値が大きくなる傾向がある。これは粘性率が大きくなるとクラックの伝播速度が遅くなり、クラックの尾に流体が残りやすく、クラック頭の体積が小さくなり、実効的なB値が小さくなるためと理解できる。クラックの伝播速度はⅠのレジームではチャネルフロー速度(n=1/3:Taisne et al. (2011))と同程度かそれ以下、Ⅲのレジームではストークス沈降速度(n=1)及び横波速度と同程度であり、Ⅱのレジームではその中間であった。従って一定体積、密度下では、粘性率が高い程、レジームⅠからⅢに移行するに従い、速度が大きく増大する。また以上の結果は流体の速度、母岩の変形速度ばかりでなく、破壊伝播速度(~横波速度)が律速していることを示している。実際、既存のクラックがある場合、伝播速度は既存のクラックがない場合に比べて速くなることを確認した。レジームⅡを特徴付ける伝播経路の蛇行は粘性率が高くなると消滅した。これは蛇行が起きるためにはB~1に加えて、臨界速度(あるいは臨界レイノルズ数)が存在することを示唆している。
引用文献:
Rubin, A. M., 1995, Ann. Rev. Earth Planet. Sci, 23, 287-336.
Sumita, I. and Y. Ota, 2011. Earth Planet. Sci. Lett., 304, 337-346.
Taisne, B. et al., 2011, Bull. Volcanol., 73, 191-204.