17:15 〜 17:30
[SCG58-15] 対馬花崗岩体における晶洞石英中の多相流体包有物分析
キーワード:多相流体包有物, X線CT, ラマン分光, 相同定
流体包有物(fluid inclusion)は、鉱物中に捕獲された流体であり、様々な鉱物中に見ることができる。流体包有物は鉱物中に取り込まれたときの状態を保っており、地下深部流体の温度や化学組成、その起源や履歴を保持していると考えられる。特に、岩塩等の結晶(固相)を含み高い塩濃度をもつ多相流体包有物は、マグマから分離した初生的に塩濃度が高い流体が沸騰を起こした際に形成されたものと考えられている。
黒澤ら(2012)、黒澤(2014)は、対馬の内山地域に分布する花崗岩体岩体内および近接の鉱脈の石英に含まれる多相包有物について、粒子線励起X線分析法(PIXE)を用いた組成分析やSEM-EDXを用いた直接結晶観察を行い、晶洞石英の多相包有物にはNa, Cl, K, Ca, Mn, Fe といった元素が主体であり、岩塩やカリ岩塩、塩化鉄を含んでいると報告している。また、この結晶の種類は包有物の取り込まれる過程によって異なっており、熱水流体の化学組成変化の指標となりうるとしている。
しかし、従来行われてきたこのような流体包有物分析手法は、破壊により包有物本来の姿を壊してしまう、包有物内部の個々の固相が三次元的に複雑に配置しており個々に対する厳密な分析は困難である、といった問題を抱えている。一方、X線CT法はサンプルの内部構造を非破壊で観察できるため、鉱物の内部構造を分析するのに有用な手法であるが、従来のX線CT装置では分解能等の問題から、非常に小さなサンプルである流体包有物の分析は行われてこなかった。近年、放射光を用いたX線CTの手法が開発されており、数100 nmから数μmの空間分解能での観察が可能となり、数μmサイズの極微小なサンプルの定量的な分析が可能となりつつある。
そこで本研究はこの対馬花崗岩体における晶洞石英に含まれる多相包有物について、その流体組成と形成過程を検討するために、放射光を用いた高分解能なX線CT法やラマン分光、SEM-EDX分析を複合的に用いて、非破壊で定量的な組成分析を行い、固相の正確な相同定や液相の推定をおこなった。分析の試料として、対馬花崗岩体における晶洞石英中の多相包有物(Sample1A, 1B, 2)を用いた。
X線CTおよびラマン分析の結果、Sample1A, 1Bの包有物からはHalite (NaCl), Sylvite (KCl), Saltonseaite (K3NaMnCl6), Siderite (FeCO3), Fe-OH鉱物(Goethite?)を見出した。Saltonseaite, Sideriteは黒澤(2014)では報告されていない鉱物であリ、saltonseaite は2013年に初めて報告された新鉱物(Kampf et al., 2013)で、本邦では始めて見出されたものである。一方で、従来報告されていたCalcite (CaCO3)や塩化鉄等は確認されなかった。また、X線CTの結果から液相についても考察を行ったところ、NaClまたはKClの飽和溶液に、さらにFeを約8mol%加える必要があることが分かった。さらに、Sample1A, 1B、2つの包有物の組成は一致していたが固相:液相:気相の体積比は異なっていた。このことは、これらの包有物は形成時期が異なっている可能性を示唆している。
Sample2について、FIBにより包有物を切断し、内部の固相の直接観察を行ったところ、Sample1には見られなかったHematite(Fe2O3)や同定できない未知の相が観察された。このことは流体包有物を破壊し直接観察を行う際には、包有物内の環境の変化によって含まれる相が変化しうるという可能性を示している。
黒澤正紀他(2012)日本鉱物科学会2012年年会講演要旨集、
黒澤正紀他(2014)日本鉱物科学会20142年年会講演要旨集、Kampf et al. (2013)American Mineralogist, 98,231.
黒澤ら(2012)、黒澤(2014)は、対馬の内山地域に分布する花崗岩体岩体内および近接の鉱脈の石英に含まれる多相包有物について、粒子線励起X線分析法(PIXE)を用いた組成分析やSEM-EDXを用いた直接結晶観察を行い、晶洞石英の多相包有物にはNa, Cl, K, Ca, Mn, Fe といった元素が主体であり、岩塩やカリ岩塩、塩化鉄を含んでいると報告している。また、この結晶の種類は包有物の取り込まれる過程によって異なっており、熱水流体の化学組成変化の指標となりうるとしている。
しかし、従来行われてきたこのような流体包有物分析手法は、破壊により包有物本来の姿を壊してしまう、包有物内部の個々の固相が三次元的に複雑に配置しており個々に対する厳密な分析は困難である、といった問題を抱えている。一方、X線CT法はサンプルの内部構造を非破壊で観察できるため、鉱物の内部構造を分析するのに有用な手法であるが、従来のX線CT装置では分解能等の問題から、非常に小さなサンプルである流体包有物の分析は行われてこなかった。近年、放射光を用いたX線CTの手法が開発されており、数100 nmから数μmの空間分解能での観察が可能となり、数μmサイズの極微小なサンプルの定量的な分析が可能となりつつある。
そこで本研究はこの対馬花崗岩体における晶洞石英に含まれる多相包有物について、その流体組成と形成過程を検討するために、放射光を用いた高分解能なX線CT法やラマン分光、SEM-EDX分析を複合的に用いて、非破壊で定量的な組成分析を行い、固相の正確な相同定や液相の推定をおこなった。分析の試料として、対馬花崗岩体における晶洞石英中の多相包有物(Sample1A, 1B, 2)を用いた。
X線CTおよびラマン分析の結果、Sample1A, 1Bの包有物からはHalite (NaCl), Sylvite (KCl), Saltonseaite (K3NaMnCl6), Siderite (FeCO3), Fe-OH鉱物(Goethite?)を見出した。Saltonseaite, Sideriteは黒澤(2014)では報告されていない鉱物であリ、saltonseaite は2013年に初めて報告された新鉱物(Kampf et al., 2013)で、本邦では始めて見出されたものである。一方で、従来報告されていたCalcite (CaCO3)や塩化鉄等は確認されなかった。また、X線CTの結果から液相についても考察を行ったところ、NaClまたはKClの飽和溶液に、さらにFeを約8mol%加える必要があることが分かった。さらに、Sample1A, 1B、2つの包有物の組成は一致していたが固相:液相:気相の体積比は異なっていた。このことは、これらの包有物は形成時期が異なっている可能性を示唆している。
Sample2について、FIBにより包有物を切断し、内部の固相の直接観察を行ったところ、Sample1には見られなかったHematite(Fe2O3)や同定できない未知の相が観察された。このことは流体包有物を破壊し直接観察を行う際には、包有物内の環境の変化によって含まれる相が変化しうるという可能性を示している。
黒澤正紀他(2012)日本鉱物科学会2012年年会講演要旨集、
黒澤正紀他(2014)日本鉱物科学会20142年年会講演要旨集、Kampf et al. (2013)American Mineralogist, 98,231.