日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS01] Outer Solar System Exploration Today, and Tomorrow

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*木村 淳(東京工業大学地球生命研究所)、藤本 正樹(宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部)、笠羽 康正(東北大学大学院 理学研究科 地球物理学専攻)、佐々木 晶(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、谷川 享行(産業医科大学医学部)、関根 康人(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、佐柳 邦男(ハンプトン大学)、Steven Vance(Jet Propulsion Laboratory, Caltech)

18:15 〜 19:30

[PPS01-P09] SUBARU/IRCS観測による木星赤外オーロラの水平・鉛直構造

*藤澤 翔太1笠羽 康正1坂野井 健2垰 千尋3北 元2鍵谷 将人2 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、2.東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター、3.Research Institute in Astrophysics and Planetology)

キーワード:木星, オーロラ, 赤外線, 分光

2014年2月・2015年1月に行ったSUBARU 8.2m望遠鏡による木星赤外オーロラの水平・鉛直構造観測の結果速報を行う。本観測では、Adaptive Optics(AO)を活用して170km程度の空間分解能を実現した。これにより、赤外オーロラの水平分布だけでなく鉛直分布(スケール高は200-400km程度)の解析も可能となった。この観測はHisaki/EXCEEDの1-3月の2015年木星観測キャンペーンに連動して行っている。
 木星磁気圏では、高速自転により生成される電流系によって「磁気圏-電離圏-熱圏(MIT)結合システム」が形成されている。このシステムでは、熱圏での粒子間衝突を介して中性大気から電離大気へ自転角運動量が輸送され、さらにこれが沿磁力線電流を介して磁気圏へ運ばれ、磁気圏プラズマを駆動する。これにより供給された磁気圏活動のエネルギーは、極域電流・降下電子の形で電離圏・熱圏の中性大気-電離大気結合域へと戻ってくる。降下電子は木星上層大気と衝突し、紫外(UV)オーロラを光らせまた大気を加熱する。この加熱により、電離大気(H3+)・中性大気(H2)の熱励起発光が生成され、赤外オーロラとして観測される。このH3+とH2の水平発光強度分布が一致していない事が過去のK-band分光観測で報告されてきた[Raynaud et al., 2004; Uno, 2013]。これは、両者の発光高度の違い、H3+発光はより電子降込の影響が大きい高温・高高度、H2発光域は電離圏電流によるJoule加熱の影響が大きい低温・低高度との解釈であった。しかし、我々が2011年12月に行ったSUBARU赤外分光による初のAO観測では、北半球赤外線オーロラの鉛直発光分布において、H2は590-720km、H3+は680-900kmの高度に発光強度のピークを持ち、予想された明確な高度差は見られなかった[Uno et al., 2014]。
 この追跡のため、2014年2月13-14日と2015年1月30-31日にSUBARU/IRCS(波長分解能約10,000)を用いた木星赤外オーロラ観測を行った。前者の観測ではAOを効かせ南半球の赤外線オーロラの水平・鉛直構造の取得を行い、後者の観測では南北両半球でAOを効かせた赤外線オーロラの水平・鉛直構造の取得を行った。Slit(5arcsec長)は、AOが有効な時間帯には水平・鉛直分布の導出を目的として木星limbに垂直(自転軸平行)に当て、AOが無効な時間帯(Galileo衛星が適切な場所にない時間帯)には、木星自転によるslit視野移動の影響を小さくすべくオーロラオーバル上で木星自転方向に平行にあてた。また、同時にH3+ Fundamental line(v=1-0)の空間分布をフィルターイメージで取得している。特に、後者のデータセットは好条件下で、L-band (3.2-4.0μm)においてH3+ Fundamental、K-band (2.0-2.4μm)においてH3+ Overtone (v=2-0)・Hot overtone (v=3-1)およびH2 (S1)の輝線をそれぞれ多数同時取得しており、相互の相対的空間分布・強度比とその時空間変動を初めて高精度で議論可能なものとなる。この観測の前後にはHisaki/EXCEEDが北半球UVオーロラの全発光量を観測しており、全発光量およびそこから演繹される降下電子の総量とエネルギー分布との比較も行う予定である。
 現在2014年2月の南半球観測データの解析を行いUno et al., 2014と同様に(1)水平分布では、メインオーバル域においてH2の発光がH3+の発光よりもコントラストが弱いこと、(2)鉛直分布では、H2・H3+の発光高度ピークに大きな違いを見出せないことを追確認した。今後H3+、H2発光のline強度比から導出される電離・中性大気温度の水平・鉛直分布を比較し、この原因を探ろうとしている。
 また、2015年1月の両半球に跨るデータセットでH3+のL-bandとK-bandの発光分布・強度比較を初めて行う。H3+分子は降下電子とH2分子との衝突で生成され、高エネルギーの電子ほどより低高度まで侵入できることから、その密度・発光強度は降下電子エネルギーの情報を包含しうる。エネルギー準位のより高いK-band輝線はより高温の高高度域、エネルギー準位の低いL-band輝線は低温度の低高度域に対応することが理論的に予測されるが、両者の準同時観測による発光・強度の比較は報告がない。本観測ではHisaki/EXCEEDからもたらされる平均的降下電子エネルギー分布情報も用いて、L・K-band間発光強度比と振込電子エネルギーとの対応を初検討する。