日本地球惑星科学連合2015年大会

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[U-06] 宇宙・太陽から地球表層までのシームレスな科学の新展開

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*松見 豊(名古屋大学太陽地球環境研究所)、草野 完也(名古屋大学太陽地球環境研究所)、石坂 丞二(名古屋大学地球水循環研究センター)、坪木 和久(名古屋大学・地球水循環研究センター)、榎並 正樹(名古屋大学 年代測定総合研究センター)

18:15 〜 19:30

[U06-P02] 歴史時代資料の年代測定-古文書・古筆切の炭素14年代測定

*小田 寛貴1池田 和臣2安 裕明3坂本 昭二4 (1.名古屋大学年代測定総合研究センター、2.中央大学文学部、3.多賀高等学校、4.龍谷大学古典籍デジタルアーカイブ研究センター)

キーワード:歴史時代, 古文書, 古筆切, 炭素14

1.はじめに
 炭素14年代測定法というと,旧石器・縄文・弥生時代の考古資料を対象とした測定法であるという印象が強い.しかしながら,近年,測定精度の向上・較正曲線の確立などに伴い,より新しい歴史時代の資料にも実質的な適用が可能となった.そこで本研究では,歴史学必須の史料である古文書に焦点を当て,炭素14年代測定法の適用を行った.
歴史学・考古学の資料について年代測定を行う本来の目的は,その資料が何らかの役割をもった道具として歴史の中に登場した年代を知るところにある.そのため,炭素14年代測定法が古文書の作成年代を知る上で有効な手法となることを実証すべく,書跡史学的な年代の判明している古文書・古写経・版本等の年代測定を行った.
その上で,年代未詳の史料に炭素14年代測定法の適用を行った.平安・鎌倉時代の古写本で現存するものは極めて少ない.これは,室町時代以降,茶室の掛け軸などにするため古写本が数行ごとに裁断されてきたためである.この裁断された断簡を古筆切という.但し,後世に制作された写しや偽物も多い.それ故,古筆切の史料的な価値は極めて高いのだが,書写年代が不明では潜在的なものに過ぎない.そこで,年代未詳の古筆切(玉津切,伝中臣鎌足筆妙法蓮華経切,鑑真将来四分律巻第27断簡等)に炭素14年代測定法を適用することで,その書写年代,ひいてはその史料的な価値を明らかにした.

2.実験方法
 古文書等の余白部分より数十mgの紙片を採取し,蒸留水中にて裏打紙等を剥離した.これを乾燥させた後,最表層の本紙を分取し,以下の化学処理に供した.蒸留水中での超音波洗浄の後,1.2N HCl,1.2N NaOHによる交互洗浄を行った.蒸留水にて洗浄後,乾燥させた料紙約5mgをCuOとともに真空中で加熱(850℃,3h)し,CO2を調製した.これをFe触媒存在下でH2により還元(650℃,6h)することで,グラファイトを合成した.
このグラファイトを用いて㈱パレオ・ラボCompact-AMS,名古屋大学タンデトロンによる炭素14年代測定を行った.得られた結果はIntCal13により暦年代に較正した.

3.結果および考察:年代既知の古文書・古筆切について
較正曲線上に,書跡史学的年代の判明している古文書・古写経・版本等について得られた炭素14年代をプロットすると,ほとんどの結果が較正曲線上に乗った.この結果は,古文書等の書跡史学的年代と炭素14年代とが一致すること,すなわち炭素14年代測定法が,古文書・古筆切・古写経切等の書写年代を知る上で有効な手法となることを示している.

4.結果および考察:年代未詳の古筆切について
 玉津切は,世尊寺経朝の筆と伝えられる古筆切である.玉津切は,女流日記文学の先駆け的作品『蜻蛉物語』の絵巻からできた古筆切である.これまで二枚のみ現存が知られていたが,新たな玉津切と思われる断簡が発見されたため,その炭素14年代測定を行った.測定結果は13世紀を示し,他の二枚のツレ(元は同じ絵巻を構成していた別の部分)であることが示された.『蜻蛉日記』の現存する写本は最古のものでも江戸時代のものであり,その本文は原典からずいぶん変化している.故に,鎌倉時代の玉津切はわずか数行であっても原典に近い貴重な古典文学史料である.本研究は,その新たな一葉が発見されたことを示したものである.
 大化の改新で知られる中臣鎌足.その手になるものと鑑定書(極札)が付された古筆切がある.しかしながら,それらの書風は鎌足の時代のものではなく,10世紀から15世紀初頭にかかるものである.そこで,中臣鎌足筆とされる妙法蓮華経切の炭素14年代を測定した.その結果,中臣鎌足の筆ではなく,14世紀のものであることが明らかにされた.
 奈良時代に来朝した高僧鑑真.鑑真は唐より日本へ多くの経典等をもたらした.その中でも重要なのは律宗の経典である60巻の四分律である.正倉院には鑑真が将来したとされる四分律が16巻現存する.料紙の書誌学的考察と顕微鏡観察からそのツレと判定された古筆切について年代測定を行った.その結果,鑑真の来朝した753年以前に書かれたものであることが判明し,この古筆切が鑑真の将来した四分律の一部である可能性が極めて高いことが示された.