日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM34] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2015年5月24日(日) 16:15 〜 18:00 102A (1F)

コンビーナ:*望月 伸竜(熊本大学大学院先導機構)、松島 政貴(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、座長:山本 裕二(高知大学 海洋コア総合研究センター)、福間 浩司(同志社大学理工学部環境システム学科)

17:21 〜 17:24

[SEM34-P03] 7~10世紀の日本における考古地磁気強度変動の傾向

ポスター講演3分口頭発表枠

*北原 優1山本 裕二2畠山 唯達3鳥居 雅之4亀田 修一5 (1.高知大学 大学院 総合人間自然科学研究科、2.高知大学 海洋コア総合研究センター、3.岡山理科大学 情報処理センター、4.岡山理科大学 総合情報学部、5.岡山理科大学 生物地球学部)

キーワード:考古地磁気強度, 永年変化, 須恵器窖窯, 高品質データ, IZZI-テリエ法, 綱川-ショー法

地球磁場は、様々な時間スケールにおいて複雑かつ不規則な変動を示すことが知られている。とくに1~1000年周期を持つ地磁気永年変化と呼ばれる変動を過去に向けて詳細に追跡することは、地球システムの理解にあたって重要だと考えられている。近代的地磁気観測に基づくデータが存在しない16世紀以前の変動の情報を得るには古地磁気学的なアプローチが必要になるが、とくに考古遺物を測定対象として利用する「考古地磁気学」の手法は、高品質な過去の地磁気データを提供するとして期待されている。近年、とくにヨーロッパにおける考古地磁気学の発展は目覚ましく、偏角・伏角・強度について、過去3000年間を網羅するデータセットが公開され(Donadini et al., 2009)、全球的な磁場モデルも提案されている(Korte et al., 2009)。
日本においても、偏角・伏角について1960年代より多くの論文報告がなされ、文化財分野にも応用されてきた(e.g. 広岡ほか, 2006)。一方、強度については、現在までに4編の論文(Nagata et al., 1963; Sasajima and Maenaka, 1966; Sakai and Hirooka, 1986; Yoshihara et al., 2003)が報告されているが、一定の信頼度を有すると認定できるデータは計43点と少ない。これらは旧来の実験手法および基準のもとで得られたものであり、最新の実験手法および基準のもとで新たにデータを得て、検証を行う必要がある。本研究では、古墳時代~平安時代に操業した須恵器窯である岡山県の邑久窯跡群と大阪府の陶邑窯跡群より採取された焼土試料に対して、最新手法であるIZZI-テリエ法(Tauxe and Staudigel, 2004)と綱川-ショー法(Yamamoto et al., 2003)を適用し、同時代における考古地磁気強度変動を推定・考察することを目的とした。
強度実験に先立ち行った各種岩石磁気実験の結果、邑久試料と陶邑試料に共通して580 ℃付近にキュリー点が見られ、最大保磁力は60~80 mTであったことから、主磁性鉱物はチタンに乏しいチタノマグネタイトであると推定された。ブロッキング温度は100~600 oC付近に幅広く分布し、ヒステリシス・パラメータについても相互作用の少ない単磁区粒子的な成分が卓越していることから、これらの試料に対して古地磁気実験が適用可能であると判断した。
強度実験の結果、テリエ法に関しては41個の試片から、ショー法に関しては23個の試片から基準を満たす合格結果が得られた。試料採取サイトごとに一定の信頼度を有する結果を選別するため、合格試片が3個以上で、サイト平均強度に対する標準偏差が20%以内に収まるものを抽出すると (1) KM-11窯跡 48.0 +/- 9.6 uT (630 +/- 10年)、(2) TG-38-III窯跡 45.4 +/- 2.0 uT (720 +/- 10年)、(3) KM-102窯跡 55.3 +/- 8.4 uT (750 +/- 10年)、(4) KM-38-II窯跡 50.0 +/- 4.3 uT (770 +/- 10年)、 (5) 佐山新池1号窯跡 55.9 +/- 8.4 uT (775 +/- 25年)、(6) 佐山東山窯跡 48.9 +/- 7.4 uT (775 +/- 25年)、(7) 佐山東山奥窯跡 49.4 +/- 4.5 uT (900 +/- 50年)の結果が選別された。
一定の信頼度を有すると認定できる、本研究および日本の先行研究のデータとを比較すると、先行研究のデータがA.D.600~900年の期間に約70 uTから約50 uTへと強度の減少を示しているのに対し、本研究のデータは約50 uT程度で一定の強度を維持しているという違いが認められる。この一定強度であったという傾向は、最近、韓国および中国から報告されたデータ(Hong et al., 2013; Cai et al., 2014)と調和的である。さらに仮想的地心軸双極子モーメント(VADM)に変換して全球規模での傾向を比較すると、GEOMAGIA50データベース(Donadini et al., 2006; Korhonen et al., 2008)より抽出した世界各地からのデータに見られるA.D.0年の約11*1022 Am2から現在の約8*1022 Am2にかけての緩やかな減少傾向とも、本研究のデータは調和的である。