日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL39] 地球年代学・同位体地球科学

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

09:15 〜 09:30

[SGL39-02] 年代測定によって得られる”年代”とは?

*兼岡 一郎1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:年代測定, 放射年代, 年代数値, 地学現象, 前提条件, 閉鎖温度

近年の各種年代測定法の技術的進歩はめざましく、得られた年代数値の制度の向上や年代測定の適用可能範囲の大幅な拡大がなされてきている。
 しかし年代測定で得られた年代数値が、そのまま直接地学現象に対応した年愛を示すとは限らない。年代測定値が地学現象の年代として意味をもつためには、それぞれの年代測定法で要求されている前提条件が満足されていることを確認する必要がある。さらに異なった年代測定法においてはそれぞれ異なった原理に基づいて年代値を得るが、それらの示す年代数値がそれぞれ異なった地学現象に対応している場合も少なくない。しかし現状は多くの場合年代測定法の技術的な改良のみに重点が置かれていて、得られた数値の意味を十分に検討しているとは言いがたい。本講演ではいくつかの例を紹介し、各年代測定法の原理や前提条件などを十分に踏まえた上で、得られた年代数値の意味を検討することの重要性を強調したい。
 各種の年代測定法に対して、異なった鉱物はそれぞれ異なる閉鎖温度を持つということを利用して、それらの鉱物を算出した地域の熱史を明らかにする研究がよく行われている。その際、放射壊変を利用した年代測定法に対する閉鎖温度は、冷却速度によっても変わる。そのため、文献などの閉鎖温度として与えられた数値に対しては大体の目安を与えたもので、10度未満の数値まで議論することは無意味である。またフィッション・トラック法などに対する閉鎖温度の定義は、放射壊変による同位体比などの変動を利用した方法とは定義が異なるので、それらを同じ基準の温度尺度として細かい数値を扱うことに対しては十分な注意が必要である。
 近年では、ジルコンを用いたU-Pb年代測定法に関しての測定技術のめざましい進歩によって、1粒のジルコンや100万年より若い試料などの測定も可能となっている。またフィッション・トラック法でも、従来からジルコンを主要な試料として用いてきている。これらの方法は他の手法に比べて相対的にその測定が簡便であり、地球形成時から第四紀後半までの広い年代範囲を測定できるということで、それらを併用して地学現象の年代を記載するジルコン年代学の分野が盛んになっている。ジルコンは他の鉱物に比べて変質や変成などの影響を受けにくいという特質が有り、特に先カンブリア紀などの古い時代の年代値を求めることに大きな利点を有している。しかし特に100万年より若い年代に対しては、年代測定法としての前提条件に関しての吟味が重要である。U-Pb系に対する閉鎖温度は700度を超えているが、フィッション・トラックに対しては250度以下であり、両者の差は大きい。しかし多くの変成作用は両方の閉鎖温度の間の温度で起こる。ジルコンの形成は地下で行われるので、その示す年代は火山の噴出年代とは異なる。さらにジルコン粒のマグマだまりでの形成期間は明確でない。こうしたことなどを踏まえて、地球史における各種の年代については、ジルコン以外の試料を用いた各種の年代測定法によって得られる年代数値も不可欠であり、それらを比較することにより実際に起こった地学現象の年代をきちんと理解することができる。そのためにもアイソクロン法を活用した年代測定などは重要で、そうした視点からの研究がもっと行われる必要がある。
 一方、アイソクロン法の年代の取り扱いにも注意が必要である。例えばアイソクロン法を用いたAr-Ar年代は過剰アルゴンの影響を取り除くことができるという解釈がよくされるが、ダイアモンドや急冷ガラスなどの場合には、それが必ずしも成立しない。そうした結果は、ほかの年代測定結果との比較によって初めて明らかになるのでその検討が重要である。
 結局、各種年代測定法によって得られた年代数値が、地学現象としての年代値とし意味を有すると判断できるのは複数の手法による結果の比較・検討が重要であり、それぞれの手法における前提条件を常に考慮して解釈することを心がけるべきである。