日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS21] 惑星科学

2015年5月24日(日) 09:00 〜 10:45 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)、濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:濱野 景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、黒澤 耕介(千葉工業大学 惑星探査研究センター)

10:39 〜 10:42

[PPS21-P04] 粘性流体へのクレーター形成実験:彗星核上のクレーターの形成及び緩和過程への応用

ポスター講演3分口頭発表枠

*阿部 仁美1荒川 政彦2保井 みなみ2 (1.横浜国立大学大学院工学府、2.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:衝突クレーター, 彗星核, 粘性率, 緩和時間

はじめに:彗星核は氷・有機物・岩石の混合物であると考えられている.また,彗星核の内部は形成から現在に至るまで熱変成度が非常に低く,太陽系でもっとも始原的な天体の一つであるといわれている.しかし,彗星核試料を直接得ることは困難であり ,その内部構造はいまだ解明されていない.一方,彗星核表面に観測される衝突クレーターは彗星核の内部構造を反映した形状を持つ可能性があるといわれている.そのため,彗星核の内部構造を明らかにするため,彗星核上の衝突クレーターの実験的研究が期待されている.現在観測されている彗星核表面上の孔構造は,月や火星などの岩石天体に見られる衝突クレーターとは大きく異なった形状をしている.彗星核は中心に近づくほど氷の含有率が多くなると考えられており,従って構成物質の組成と力学特性が深さと伴に変化する.このことが孔構造の形成メカニズムへ複雑に寄与する.加えて,彗星核表面は氷が昇華して残った有機物と岩石の混合物からなると考えられており,そのため孔構造は有機物の粘性の効果により他の岩石天体にできるものとは異なる挙動を示すと思われる.彗星核表面上にみられる孔構造を衝突クレーターとみなすなら,深さによる力学特性の変化と,表面の粘性効果による寄与が存在すると考えられる.本研究では,後者で述べられた彗星核表面上の有機物の持つ粘性に着目し,クレーターの再現実験を行った.
粘性流体への高速度衝突実験を行った先行研究(Fink et al., 1984)では,一時クレーターの体積および 直径・深さ比が標的の粘性に依存することが示された.また,標的の粘性率が低くなると,粘性率の変化に対してクレーター体積がほぼ変化しない重力支配的な挙動を示し,粘性率が高くなると粘性率の増加に伴ってクレーター体積が減少する粘性支配的な挙動を示すことが確認された.彼らの実験は衝突速度範囲が0.43~6.62km/sであり,彗星核上の衝突クレーター形成過程を明らかにするには,幅広い速度範囲でこの振る舞いが成り立つかどうかを調べる必要がある.そこで本研究では,先行研究よりも10~100倍(桁)低い衝突速度域での実験を行った.

実験方法:実験は神戸大学の縦型一段式軽ガス銃を用いて行った.標的には粘性流体として水あめを使用し,水を加えることでその粘性率を0.02~47Pasまで変化させた.また比較のため,粘性率が10-3Pasである水も使用した.弾丸は直径約10mm, 厚さ約5mmの円柱状にくり抜いた寒天を用いた.寒天を弾丸として用いた理由は,衝突時に破壊される弾丸を用いる事で,弾丸の破壊の影響を調べるためである.また,弾丸加速時の破壊を防ぐため,弾丸後方に寒天と同じ大きさのウレタン製サボを取り付けて発射した.実験は大気圧下で行い,衝突速度は50~80m/sとした.また,クレーター形成の様子は高速度ビデオカメラで撮影し,動画を用いてクレーター深さの時間変化,最大直径を調べた.

結果:高速度ビデオカメラの画像を用いて,クレーターの直径及び深さの時間変化を計測し,それぞれのサイズが粘性率にどう依存するかを調べた.まず,クレーター深さは,時間の経過と伴に深さが増加し,ある時間経つと深さが減少することがわかった.そこで,この最大深さとその時のクレーター直径を用いてクレーター体積を求め,粘性率との関係を調べた.今回は,無次元クレーター体積項π1*=(Vρ/m)●(1.61gDp/u2)a (Vがクレーター体積, ρが標的密度, gが重力加速度, Dpが弾丸直径, uが速度, aが定数)と無次元粘性項 π2*=(η/(ρDpu))●(1.61gDp/u2)(a-1)/2(ηが粘性率)を用いて整理した。その結果,π2*が小さいとπ1*は粘性率に依らずほぼ一定になり(重力支配域)、π2*が大きいと粘性率の増加とともにπ1*は小さくなった(粘性支配域)。この傾向は先行研究でも同様にみられたことから,衝突速度が1?2桁異なっても同様の関係がなりたつことが示された。一方,本研究で得られた結果は粘性支配域と重力支配域の境界のπ2*が先行研究よりも小さくなった。さらに,同じπ2*でも本研究の結果が全体的にπ1*が小さく,粘性支配域での関係を示すベキ乗則のベキが大きくなった。
また,クレーター深さが最大から減少して0になるまでの過程を緩和過程とし,クレーターの深さが最大の深さの1/e倍になるまでの時間を緩和時間として計算した.その結果,粘性率が大きくなるほど緩和時間が長くなることが確認された.クレーターの緩和時間に関する理論式tRG8η/(ρgDc)(Dcは直径)を用いて計算した理論値と実験値を比較したところ,粘性率が低く小さくなるにつれて実験値は理論値よりも大きな値を示した.