日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG32] 惑星大気圏・電磁圏

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 A03 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)、関 華奈子(名古屋大学太陽地球環境研究所)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、高橋 芳幸(神戸大学大学院理学研究科)、深沢 圭一郎(京都大学学術情報メディアセンター)、中川 広務(東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻太陽惑星空間物理学講座 惑星大気物理学分野)、座長:今村 剛(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)

17:45 〜 18:00

[PCG32-10] 高速回転する薄い球殻内の熱対流により引き起こされる表層縞状構造の消滅

*佐々木 洋平1竹広 真一2石岡 圭一3中島 健介4林 祥介5 (1.京都大学大学院理学研究科数学・数理解析専攻、2.京都大学数理解析研究所、3.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、4.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、5.神戸大学理学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:巨大ガス惑星大気, 縞状構造, 赤道加速ジェット流, ロスビー波, 木星, 土星

木星と土星の表層の流れは, 赤道周辺の幅の広い順行ジェットと中高緯度で交互に現われる互いに逆向きの幅の狭いジェットが特徴的である. この表層のジェットが深部領域の対流によって生成されているのか, 表層の流体運動の結果なのかは未だに明らかになっていない. 流体層の厚さが惑星半径に比して十分小さい「浅い」モデル, すなわち, 鉛直方向の静水圧近似の仮定の下で深部からの熱流と太陽加熱によって大気の運動が駆動されるモデルでは, 中高緯度の交互に表われる幅の狭いジェットは再現されるものの, 赤道域のジェットは必ずしも順行方向とはならない. 一方で, 流体層の厚さが惑星半径に匹敵する「深いモデル」, すなわち高速回転する球殻中の熱対流モデルでは, 赤道域の順行するジェットは容易に生成されるものの, 中高緯度の交互に表われるジェットの生成が困難である.

この問題に対して Heimpel and Aurnou (2007) はこれまでに考えられていた深いモデルよりも薄い球殻領域内の深部対流運動を考え, レイリー数が十分大きく内球接円筒での対流が活発な場合に, 赤道域の順行流と中高緯度の交互に現われる狭いジェットが共存する状態を数値的に再現した. しかしながら, 彼らの研究では経度方向に 8 回対称性を仮定しており, 全球の 1/8 の領域の運動しか解いていない. このような領域の制限は流れ場全体の構造に影響を与えている可能性がある. 例えば, 2 次元乱流的なエネルギーの upward cascade が十分に作用し, 互い違いの縞状ジェットが生成されないかもしれない. また, 生成される帯状流が不安定となって縞状ジェットが壊されてしまうかもしれない. さらに積分時間が 1600 回転(0.024 粘性拡散時間)と短いため, 統計的定常状態に達しているか定かではない. また, 2 次元球面強制乱流の研究によると, 長時間積分ののち縞状ジェットが融合消滅し 2, 3 本にまで減ってしまうことが知られている(Obuse et al. 2010) ので長時間積分してみる必要がある. そこで本研究では、Heimpel and Aurnou (2007) の数値実験を全球に拡張して長時間積分を実行し, 赤道域および中高緯度領域の帯状流が形成されるか否かを吟味した.

モデルは回転する球殻中のブシネスク流体の方程式系から構成される. 方程式系に現われる無次元数である プランドル数を 0.1, エクマン数を 3x10-6, 球殻の内径外径比を 0.85, 修正レイリー数を 0.05 に固定した. 境界条件は, 温度固定, 応力無し条件である. 初期には回転系での静止状態にランダムな温度擾乱を加えた. 7500 回転まで時間積分したところ, Heimpel and Aurnou (2007) の結果と整合的な赤道ジェットと中高緯度の縞状構造が出現した. しかしながら, さらに時間積分を進めると, 中高緯度が全体に西風加速され縞状構造が消滅していき, 12800 回転にいたると南北中高緯度に幅広の帯状流がそれぞれ 1 本づつ出現した. 中高緯度の幅広な帯状流の形成は, 対流運動で駆動された回転軸方向に一様な 2 次元渦が地形性ロスビー波として外側へと伝播し, 東風角運動量を抜き去ることで西風加速が生じていると考えられる. ただし, 中高緯度の幅広ジェットが出現した状態でもいまだに運動エネルギーが増加しつづけているので, 統計的定常状態を得るためにさらなる時間積分が必要である.

謝辞 : 本研究の数値計算には海洋研究開発機構の地球シミュレータ(ES2)を用いた.

参考文献 : Heimpel, M., Aurnou, J. (2007) Icarus, 187, 540--557.
Obuse, K., Takehiro, S., Yamada, M. (2010) Phys. Fluids, 22, 056601.