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[BPT26-01] 古代タンパク質の復元に基づく全生物の最後の共通祖先の生育環境の復元
キーワード:コモノート(全生物の最後の共通祖先), 祖先蛋白質復元, ヌクレオシド二リン酸キナーゼ, 好熱菌
地球上の生命の起源と進化を理解する上で、初期の生命の生育環境を明らかにすることは重要である。しかし、現生生物の祖先となる生物の生育環境を推測することは、地球上の生命の初期進化に関する地質記録は極めて限られており、容易ではない。
Woese等 (1990, PNAS, 87: 4576-4579) が作製した16S/18S rRNAに基づく系統樹によれば、現生生物は3つのドメイン、古細菌Archaea、真正細菌Bacteria、真核生物Eukarya、に分かれ、共通祖先をもつ。異論はあるが、それぞれ単系統群である古細菌と真核生物は姉妹群であり、全生物の最後の共通祖先(LUCA。我々はCommonoteと呼んでいる)の位置は、真正細菌と古細菌+真核生物の間であると考えられる。全生物の共通祖先が存在したとすると、次の疑問はその共通祖先がどのような生物であったかである。「全生物の共通祖先は超好熱菌であった」であるという仮説がPace (1991, Cell, 65: 531-533 )によって提案されたが、その解釈に対する反論も多かった。しかしながら、これらの議論のほとんどは、分子系統解析により全生物の共通祖先の核酸のG + C 含量やアミノ酸組成を推定し、そこから生育温度を推論したものであり、実験的に検証されたものではない(例えばGaltier et al. (1999, Science, 283:220-221)、Boussau et al. (2008, Nature, 456:942-945)、Groussin et al. (2013, Biol. Lett., 9: 20130608))。しかし、近年、分子系統解析による祖先蛋白質のアミノ酸配列の推定と、その配列をコードする祖先型遺伝子の実験的な復元が、過去の生物の性質を理解するために行われるようになって来た(例えばGaucher et al. (2003, Nature, 425: 285-288)。
ヌクレオシド二リン酸キナーゼ(NDK)は、至適生育温度が異なる様々な微生物のNDKの変性温度が至適生育温度と強い相関を持つ。そのため、祖先配列の推定から復元したNDKの変性温度から、そのNDKを持った過去の生物の生育温度環境を推定することができる。そこで我々は、古細菌共通祖先生物(LACA)と真正細菌共通祖先生物(LBCA)の持っていたと考えられるNDKのアミノ酸配列を推定し、遺伝子工学的手法により復元した祖先NDK遺伝子を大腸菌内で発現し、祖先NDKの精製と熱変性測定をおこなった。復元したLACA NDK、LBCA NDKは、どちらも変性中点温度が100℃を超える高い耐熱性を有していた。よって、LACAとLBCAはそれぞれ超好熱菌であったと推定された。また、LACA NDKとLBCA NDKの配列はよく似ており、CommonoteのNDKも同様なアミノ酸配列を持っていたことが期待されたことから、LACA NDKとLBCA NDKの配列からCommonote NDKの配列を作製した。その変性温度は90℃以上であり、このNDKを持った全生物の共通祖先(Commonote)は75℃以上に生息する好熱菌であったと考えられた(Akanuma et al. 2013, PNAS, 110: 11067-11072)。
また、LUCA/Commonoteが好冷菌ないしは常温菌であったと推定したBoussau等(2008)や常温菌ないしは中等度好熱菌であったと推定したGroussin等(2013)の推定の根拠の一つは、進化の過程でのアミノ酸組成の変化を許容する分子系統樹推定法を用いて推定したCommonoteの蛋白質のアミノ酸組成であった。我々は、同様の分子系統樹推定法を用いて新たにLACA NDK、LBCA NDK、そしてCommonote NDKのアミノ酸配列を推定し、遺伝子工学的手法により復元した祖先NDK遺伝子を大腸菌内で発現、精製を行った。これらのLACA NDK、LBCA NDK、ならびにCommonote NDKの変性中点温度はいずれも100℃以上であり、LACA、LBCA、Commonoteはいずれも、好熱菌ないしは超好熱菌であったと推定された。
以上の結果は、古細菌共通祖先生物(LACA)、真正細菌共通祖先生物(LBCA)がともに(超)好熱菌であり、全生物の最後の共通祖先(LUCA/Commonote)が(超)好熱菌であったことの実験的な証拠と言える。また、祖先NDKの酵素活性のpH依存性を現生生物のNDKと比較することで、祖先生物の細胞内環境の推定も試みているので、その結果についても紹介する。
Woese等 (1990, PNAS, 87: 4576-4579) が作製した16S/18S rRNAに基づく系統樹によれば、現生生物は3つのドメイン、古細菌Archaea、真正細菌Bacteria、真核生物Eukarya、に分かれ、共通祖先をもつ。異論はあるが、それぞれ単系統群である古細菌と真核生物は姉妹群であり、全生物の最後の共通祖先(LUCA。我々はCommonoteと呼んでいる)の位置は、真正細菌と古細菌+真核生物の間であると考えられる。全生物の共通祖先が存在したとすると、次の疑問はその共通祖先がどのような生物であったかである。「全生物の共通祖先は超好熱菌であった」であるという仮説がPace (1991, Cell, 65: 531-533 )によって提案されたが、その解釈に対する反論も多かった。しかしながら、これらの議論のほとんどは、分子系統解析により全生物の共通祖先の核酸のG + C 含量やアミノ酸組成を推定し、そこから生育温度を推論したものであり、実験的に検証されたものではない(例えばGaltier et al. (1999, Science, 283:220-221)、Boussau et al. (2008, Nature, 456:942-945)、Groussin et al. (2013, Biol. Lett., 9: 20130608))。しかし、近年、分子系統解析による祖先蛋白質のアミノ酸配列の推定と、その配列をコードする祖先型遺伝子の実験的な復元が、過去の生物の性質を理解するために行われるようになって来た(例えばGaucher et al. (2003, Nature, 425: 285-288)。
ヌクレオシド二リン酸キナーゼ(NDK)は、至適生育温度が異なる様々な微生物のNDKの変性温度が至適生育温度と強い相関を持つ。そのため、祖先配列の推定から復元したNDKの変性温度から、そのNDKを持った過去の生物の生育温度環境を推定することができる。そこで我々は、古細菌共通祖先生物(LACA)と真正細菌共通祖先生物(LBCA)の持っていたと考えられるNDKのアミノ酸配列を推定し、遺伝子工学的手法により復元した祖先NDK遺伝子を大腸菌内で発現し、祖先NDKの精製と熱変性測定をおこなった。復元したLACA NDK、LBCA NDKは、どちらも変性中点温度が100℃を超える高い耐熱性を有していた。よって、LACAとLBCAはそれぞれ超好熱菌であったと推定された。また、LACA NDKとLBCA NDKの配列はよく似ており、CommonoteのNDKも同様なアミノ酸配列を持っていたことが期待されたことから、LACA NDKとLBCA NDKの配列からCommonote NDKの配列を作製した。その変性温度は90℃以上であり、このNDKを持った全生物の共通祖先(Commonote)は75℃以上に生息する好熱菌であったと考えられた(Akanuma et al. 2013, PNAS, 110: 11067-11072)。
また、LUCA/Commonoteが好冷菌ないしは常温菌であったと推定したBoussau等(2008)や常温菌ないしは中等度好熱菌であったと推定したGroussin等(2013)の推定の根拠の一つは、進化の過程でのアミノ酸組成の変化を許容する分子系統樹推定法を用いて推定したCommonoteの蛋白質のアミノ酸組成であった。我々は、同様の分子系統樹推定法を用いて新たにLACA NDK、LBCA NDK、そしてCommonote NDKのアミノ酸配列を推定し、遺伝子工学的手法により復元した祖先NDK遺伝子を大腸菌内で発現、精製を行った。これらのLACA NDK、LBCA NDK、ならびにCommonote NDKの変性中点温度はいずれも100℃以上であり、LACA、LBCA、Commonoteはいずれも、好熱菌ないしは超好熱菌であったと推定された。
以上の結果は、古細菌共通祖先生物(LACA)、真正細菌共通祖先生物(LBCA)がともに(超)好熱菌であり、全生物の最後の共通祖先(LUCA/Commonote)が(超)好熱菌であったことの実験的な証拠と言える。また、祖先NDKの酵素活性のpH依存性を現生生物のNDKと比較することで、祖先生物の細胞内環境の推定も試みているので、その結果についても紹介する。