日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG32] 熱帯におけるマルチスケール大気海洋相互作用現象

2015年5月26日(火) 14:15 〜 16:00 202 (2F)

コンビーナ:*時長 宏樹(京都大学防災研究所・白眉センター)、長谷川 拓也(独立行政法人海洋研究開発機構)、清木 亜矢子(海洋研究開発機構)、東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、名倉 元樹((独) 海洋研究開発機構)、大庭 雅道(電力中央研究所 環境科学研究所 大気海洋環境領域)、今田 由紀子(東京大学大気海洋研究所)、座長:時長 宏樹(京都大学防災研究所・白眉センター)、大庭 雅道(電力中央研究所 環境科学研究所 大気海洋環境領域)

15:55 〜 15:18

[ACG32-P01] 海面パラメーターの時間変動特性による熱帯海域の分類

ポスター講演3分口頭発表枠

*坂本 理沙1久保田 雅久1 (1.東海大学大学院海洋学研究科)

キーワード:熱帯域, 海洋観測ブイ, ENSO, マッデン・ジュリアン振動

熱帯域の海洋観測ブイによるデータ取得率は2012以降急激に減少している。Tropical Pacific Observing system2020(TPOS2020) workshopにおいて、継続的な熱帯海域の海洋観測行うことは重要な課題の一つとなっている。継続的に海洋観測を行う為には、科学的根拠に基づいてブイの最適配置を検討し、コストを抑えた効率的な観測を行うことが必要である。ブイの最適配置を検討するためには、どの海域を観測すればどのような物理現象を観測することが可能かを把握する必要がある。本研究では、ブイの最適配置を検討する為に、時間変動特性を基準に熱帯域を分類し、分類した海域の時間変動と熱帯域の物理現象との時間変動の類似性を調べることを目的とした。
 本研究では、潜熱の計算に必要な海面水温,風速,大気比湿を対象の物理量とし、解析期間を1986-2010とした。使用したデータセットは、Merged satellite and in situ data Global Daily Sea Surface Temperatures (海面水温) , The Modern-Era Retrospective Analysis for Research and Applications(風速,大気比湿) である。基本となるデータの時間解像度は日平均値、空間解像度は1°×2°に統一した。本研究では、対象となる物理現象としてエルニーニョ現象、南方振動, MJO振動に着目し、各データに対して各物理現象の卓越する周期を抽出するためのフィルターをかけた。フィルターをかけた各データに対し、クラスター解析を用いて熱帯域(30°N-30°S)を時間変動の類似する海域に分類した。各クラスターと物理現象との関連性を調べるために、各クラスターの平均値から求めた時系列と各物理現象の指数との相関係数を求めた。指数としてエルニーニョ現象にはNINO3を,南方振動にはSothern Oscillation index(SOI)を、MJO振動にはAn all season real time multivariate MJO index(Matthew et al,2004)を用いた。
 図1は海面水温と風速に対するクラスター解析の結果を示す。解析の結果、海面水温に対しては、エルニーニョ監視海域に位置するクラスターDの時系列と赤道西部太平洋のクラスターCの時系列がNINO3と高い相関の値を示した。エルニーニョ監視海域を含むクラスターはインド洋と同一のクラスターに, 赤道西部太平洋のクラスターは大西洋と同一のクラスターに分類された。一方、風速に関してはエルニーニョ監視海域に位置するクラスターではなく、10°N~20N, 10°S~20°Sの間の太平洋西部から東部にのびるクラスターFの時系列とNINO3との相関が高い値を示した。大気比湿に対しては海面水温の解析結果と同様に太平洋西部と中央部の2カ所のクラスターの時系列がNINO3との高い相関の値を示した。南方振動はエルニーニョ現象と表裏一体の現象であるので、エルニーニョ現象の卓越周期を抽出したデータに対するクラスター解析の結果を用いてSOIとの相関係数を求めた結果、SOIと高い相関の値を示したクラスターはNINO3と高い相関の値を示したクラスターと同一であった。
 MJO indexは海大陸周辺と熱帯太平洋の対流活動を示す指標である。MJO振動の卓越周期(30?90日)を抜き出すフィルターをかけたデータに対し、クラスター解析を行い、各クラスターの時系列とMJO indexとの相関係数を求めた結果、風速と大気比湿では、海大陸周辺のクラスターと熱帯太平洋中央部および東部におけるクラスターの時系列が高い相関の値を示した。海面水温に対してはインド洋と熱帯太平洋西部のクラスターがMJO indexと高い相関を示した。
 本研究における解析の結果により、各指数と時間変動の類似するクラスターが明らかとなった。この結果は、どの海域を海洋観測すればどのような物理現象を観測出来るかという観点で、ブイの最適配置を検討するための有用な情報となるだろう。またこの結果において、離れた海域が同じクラスターに属する事は、これまで別々の物理現象と考えられていた物理現象の新しい関係性を示唆している可能性もある。今後、クラスター解析の結果に結びつく物理的メカニズムを解明する事はブイの最適配置を考える為にも、これからの熱帯域における物理現象のメカニズムの理解の為にも重要となるだろう。