18:15 〜 19:30
[MIS26-P01] 三酸素同位体組成を用いた湖沼における新生産量および再生生産量の定量
キーワード:新生産, 再生生産, 総一次生産, 湖沼, 三酸素同位体組成, 成層水塊
湖沼や海洋といった水環境における総一次生産速度は、光合成による総炭素固定速度を示す指標であり、個々の水環境を代表する基本パラメータである。これは富栄養化や温暖化に起因する環境変化も鋭敏に反映すると考えられる。また、総一次生産速度は、硝酸やアンモニアといった固定態窒素の供給速度によって制限されている水環境が多いことから、総一次生産速度は窒素循環とリンクさせて評価されることが多い。例えば、総一次生産速度を窒素源によって大きく2つに分け、大気や深層から有光層内へ供給される硝酸や分子状窒素を利用した一次生産速度を「新生産速度」、有光層内の生物活動に伴って放出されたアンモニアや溶存態窒素化合物を利用した一次生産速度を「再生生産速度」と呼んで、水環境中の物質循環を区別して評価する。
総一次生産速度やこれに関連したパラメータは、酸素明暗瓶法や炭素同位体(13C又は14C)濃縮試薬添加法、窒素同位体(15N)濃縮試薬添加法といった培養に依拠した手法によって定量するのが最も一般的である。しかし、このような人工的な培養環境で見積もられた速度は、実際の水環境の速度を正しく反映していない可能性がある。また、これらの手法で得られる速度はあくまでも観測時点における瞬間速度であるため、平均速度との間に速度の時間変化に起因する誤差が生じる。また、この影響を小さくしようとすると観測頻度を著しく増やす必要があり、今度は手間やコストがかかるという問題もある。
そこで本研究グループでは、湖沼水に溶存している物質の自然同位体組成から、培養に頼らずにこれらパラメータを評価できないか検討している。地球上の大部分の含酸素化合物中の三酸素同位体の存在比は、質量依存同位体分別則に従った一定の関係を保った値を持つが、大気中のオゾンの生成反応はその関係から大きく逸脱した同位体分別を示す。そのため、オゾンが生成過程などに関与する大気中の酸素分子や硝酸の三酸素同位体組成は、水中の光合成によって生成される酸素分子や有機物の分解過程によって生成される硝酸の三酸素同位体組成とは異なる値を示す。この三酸素同位体組成は、一般的な反応では変化せず、異なる三酸素同位体組成を持つ分子同士の混合によってのみ変化することから、一方の流入速度が決まれば他方の流入速度も決まるという具合に、水環境における酸素分子や硝酸の循環速度の定量に用いることができる可能性がある。また、こうして求められる速度は観測日間の平均値であり、従来の瞬間値を求める手法に比べて簡便でかつ確度の高い手法となる可能性がある。
本研究では特に、溶存酸素の三酸素同位体組成を使って総一次生産速度を定量し、硝酸の三酸素同位体組成を使って新生産速度(硝酸同化速度)を定量し、それらの差から再生生産速度を計算できないか試みた。対象とした水環境は、貧栄養湖の支笏湖および倶多楽湖、そして中栄養湖の琵琶湖である。同一年内に2回(春と夏)試料採取を行い、その間における湖水中の溶存酸素および硝酸の三酸素同位体組成の鉛直分布とその変化から、一次生産が最も活発な時期であると考えられる春先から夏までの間の各速度を見積もった。その結果、貧栄養湖の方が中栄養湖に比べて新生産の割合 (f-ratio) が低く、特にリン制限の極貧栄養湖である倶多楽湖の一次生産の大部分は再生生産によることが分かった。
総一次生産速度やこれに関連したパラメータは、酸素明暗瓶法や炭素同位体(13C又は14C)濃縮試薬添加法、窒素同位体(15N)濃縮試薬添加法といった培養に依拠した手法によって定量するのが最も一般的である。しかし、このような人工的な培養環境で見積もられた速度は、実際の水環境の速度を正しく反映していない可能性がある。また、これらの手法で得られる速度はあくまでも観測時点における瞬間速度であるため、平均速度との間に速度の時間変化に起因する誤差が生じる。また、この影響を小さくしようとすると観測頻度を著しく増やす必要があり、今度は手間やコストがかかるという問題もある。
そこで本研究グループでは、湖沼水に溶存している物質の自然同位体組成から、培養に頼らずにこれらパラメータを評価できないか検討している。地球上の大部分の含酸素化合物中の三酸素同位体の存在比は、質量依存同位体分別則に従った一定の関係を保った値を持つが、大気中のオゾンの生成反応はその関係から大きく逸脱した同位体分別を示す。そのため、オゾンが生成過程などに関与する大気中の酸素分子や硝酸の三酸素同位体組成は、水中の光合成によって生成される酸素分子や有機物の分解過程によって生成される硝酸の三酸素同位体組成とは異なる値を示す。この三酸素同位体組成は、一般的な反応では変化せず、異なる三酸素同位体組成を持つ分子同士の混合によってのみ変化することから、一方の流入速度が決まれば他方の流入速度も決まるという具合に、水環境における酸素分子や硝酸の循環速度の定量に用いることができる可能性がある。また、こうして求められる速度は観測日間の平均値であり、従来の瞬間値を求める手法に比べて簡便でかつ確度の高い手法となる可能性がある。
本研究では特に、溶存酸素の三酸素同位体組成を使って総一次生産速度を定量し、硝酸の三酸素同位体組成を使って新生産速度(硝酸同化速度)を定量し、それらの差から再生生産速度を計算できないか試みた。対象とした水環境は、貧栄養湖の支笏湖および倶多楽湖、そして中栄養湖の琵琶湖である。同一年内に2回(春と夏)試料採取を行い、その間における湖水中の溶存酸素および硝酸の三酸素同位体組成の鉛直分布とその変化から、一次生産が最も活発な時期であると考えられる春先から夏までの間の各速度を見積もった。その結果、貧栄養湖の方が中栄養湖に比べて新生産の割合 (f-ratio) が低く、特にリン制限の極貧栄養湖である倶多楽湖の一次生産の大部分は再生生産によることが分かった。