12:36 〜 12:39
[AHW24-P07] 地下水試料の保管と炭素同位体比の経時変化
ポスター講演3分口頭発表枠
地下水等の溶存無機炭素の炭素同位体は,溶存している炭素成分の起源や動態を把握するために重要なトレーサーであり,生物活動や地質学的なイベントを評価するために用いられることが多い.
水試料の採取から分析までの期間に,炭素同位体比が変化することがあり,その原因として,大気CO2との交換,生物活動,炭酸塩鉱物の溶解や沈殿等が考えられる.本研究では,いくつかの地下水試料について,試料採取からの経過日数によるδ13C,14C濃度の変化を測定し,どの程度の変化が起こるのか,その原因は何かについて検討した.
検証用の試料として,表層海水(RICE-W01),塩濃度,炭酸濃度ともに高い温泉水(RICE-W03),塩濃度が高く,炭酸濃度が低い温泉水(RICE-W04),塩濃度,炭酸濃度ともに低い地下水(堆積層と花こう岩の帯水層,RICE-W05,W06),試薬から調製した水(RICE-W07, W08)を用いた.同位体比の変化の分析が行われているのは,保管期間がW01では860日,W03?W06で560日,W07とW08で480日までである.
表層海水(W01),髙炭酸濃度の温泉水試料(W03)と試薬(W07, W08)では,δ13Cの変化が少なかったが,炭酸濃度の低い温泉水試料(W04)地下水試料(W05, W06)では,生物活動の影響と思われるδ13Cの低下が見られた.特にW05での変化が大きかった.保管期間中のδ13Cの最大変化はW01で-0.2‰,W03で-0.3‰,W04で-1.1‰,W05で-5.4‰,W06で-1.2‰,W07で-0.2‰,W08で-0.2‰である.W07とW08については,試薬から調製した試料のため,生物活動の影響がないと考えられることから,ただ保管するだけでも同位体比が変化する可能性があるが,実際の水試料のなかには,試薬から調製した試料と同じくらい値が保持されるものもあることが示された.
試料保管中の生物活動を抑えるために,試料に毒物を添加することが有効であるが,地下水・温泉水・湧水等を試料とする場合,試料採取地点が管理された研究区域ではないため,毒物使用がためらわれることがほとんどである.そこで,毒物使用の代替措置について,生物活動の影響が最も大きいと思われるW05を用いて検討を行った.
W05は硫化水素臭がすることから,比較的,還元的な環境を保ったまま揚水されていると考えられる.そこで,生物活動の抑制のために酸素を遮断することの効果を検討した.試料瓶にヘッドスペースを極力作らないで採取したもの,ヘッドスペースが脱気されたもの(真空バイアルに水試料を導入),空気のヘッドスペースがあるもの,NaOHを添加したものを比較した.150日間の保管期間中のδ13Cの変化は,ヘッドスペースを減らしたもので-3‰,ヘッドスペースを脱気したもので-3.2‰,空気のヘッドスペースがあるもので-8.4‰,NaOHを添加したもので-0.2‰であった.NaOH添加は有効と思われるが,温泉水のような高塩濃度試料にNaOHを添加すると,大量の水酸化物の沈殿が生じると考えられるため,塩濃度の低い試料に対してのみ有効と思われる.
試料を保管する容器の材質によって,同位体比の変化がどの程度違うのかについて検討した.容器の材質以外に同位体比が変化する要因を排除するために,試薬から調製したW07,W08を用いて,ガラス,PAN樹脂,PP樹脂の容器に分取して検証を行った.その結果,δ13Cの経時変化は大きくなかったものの,14C濃度の変化は容器の材質に依存して明瞭な違いが見られ,ガラス容器とPAN樹脂容器で小さく,PP樹脂容器で大きい結果となった.PP樹脂容器は水試料の採取では一般的に用いられるが,炭素同位体分析用の試料容器として不向きであることが示された.
本研究は,JSPS科研費「水試料の放射性炭素濃度の相互比較と前処理手法の検討:RICE-Wプロジェクト(26340017)」の助成を受けたものです.
水試料の採取から分析までの期間に,炭素同位体比が変化することがあり,その原因として,大気CO2との交換,生物活動,炭酸塩鉱物の溶解や沈殿等が考えられる.本研究では,いくつかの地下水試料について,試料採取からの経過日数によるδ13C,14C濃度の変化を測定し,どの程度の変化が起こるのか,その原因は何かについて検討した.
検証用の試料として,表層海水(RICE-W01),塩濃度,炭酸濃度ともに高い温泉水(RICE-W03),塩濃度が高く,炭酸濃度が低い温泉水(RICE-W04),塩濃度,炭酸濃度ともに低い地下水(堆積層と花こう岩の帯水層,RICE-W05,W06),試薬から調製した水(RICE-W07, W08)を用いた.同位体比の変化の分析が行われているのは,保管期間がW01では860日,W03?W06で560日,W07とW08で480日までである.
表層海水(W01),髙炭酸濃度の温泉水試料(W03)と試薬(W07, W08)では,δ13Cの変化が少なかったが,炭酸濃度の低い温泉水試料(W04)地下水試料(W05, W06)では,生物活動の影響と思われるδ13Cの低下が見られた.特にW05での変化が大きかった.保管期間中のδ13Cの最大変化はW01で-0.2‰,W03で-0.3‰,W04で-1.1‰,W05で-5.4‰,W06で-1.2‰,W07で-0.2‰,W08で-0.2‰である.W07とW08については,試薬から調製した試料のため,生物活動の影響がないと考えられることから,ただ保管するだけでも同位体比が変化する可能性があるが,実際の水試料のなかには,試薬から調製した試料と同じくらい値が保持されるものもあることが示された.
試料保管中の生物活動を抑えるために,試料に毒物を添加することが有効であるが,地下水・温泉水・湧水等を試料とする場合,試料採取地点が管理された研究区域ではないため,毒物使用がためらわれることがほとんどである.そこで,毒物使用の代替措置について,生物活動の影響が最も大きいと思われるW05を用いて検討を行った.
W05は硫化水素臭がすることから,比較的,還元的な環境を保ったまま揚水されていると考えられる.そこで,生物活動の抑制のために酸素を遮断することの効果を検討した.試料瓶にヘッドスペースを極力作らないで採取したもの,ヘッドスペースが脱気されたもの(真空バイアルに水試料を導入),空気のヘッドスペースがあるもの,NaOHを添加したものを比較した.150日間の保管期間中のδ13Cの変化は,ヘッドスペースを減らしたもので-3‰,ヘッドスペースを脱気したもので-3.2‰,空気のヘッドスペースがあるもので-8.4‰,NaOHを添加したもので-0.2‰であった.NaOH添加は有効と思われるが,温泉水のような高塩濃度試料にNaOHを添加すると,大量の水酸化物の沈殿が生じると考えられるため,塩濃度の低い試料に対してのみ有効と思われる.
試料を保管する容器の材質によって,同位体比の変化がどの程度違うのかについて検討した.容器の材質以外に同位体比が変化する要因を排除するために,試薬から調製したW07,W08を用いて,ガラス,PAN樹脂,PP樹脂の容器に分取して検証を行った.その結果,δ13Cの経時変化は大きくなかったものの,14C濃度の変化は容器の材質に依存して明瞭な違いが見られ,ガラス容器とPAN樹脂容器で小さく,PP樹脂容器で大きい結果となった.PP樹脂容器は水試料の採取では一般的に用いられるが,炭素同位体分析用の試料容器として不向きであることが示された.
本研究は,JSPS科研費「水試料の放射性炭素濃度の相互比較と前処理手法の検討:RICE-Wプロジェクト(26340017)」の助成を受けたものです.