日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] 地殻流体と地殻変動

2015年5月27日(水) 11:00 〜 12:45 102B (1F)

コンビーナ:*小泉 尚嗣(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、梅田 浩司(独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、松本 則夫(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、田中 秀実(東京大学大学院理学系研究科)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、座長:小泉 尚嗣(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、梅田 浩司(独立行政法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

11:30 〜 11:45

[SCG61-03] 泥火山流体に寄与する鉱物脱水流体とその酸素・水素同位体組成 - 3成分混合モデルからの制約 -

*菅井 秀翔1田中 秀実1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

沈み込み帯前縁部にみられる泥火山は,間隙水や含水鉱物の形で沈み込んだ水が脱水され,それが地表面や海底面に湧出して形成されたもので,沈み込み帯の水循環の一部を担う.泥火山から湧出する流体の起源を理解することは,沈み込み帯の水循環とそれに関連して生じる地震活動や火山活動,および地球化学的循環を知る上で重要である.泥火山流体の主要な起源としては堆積物の間隙水やガスハイドレートの分解に伴って生じた水,天水,海水,鉱物脱水に由来する水などが知られている.このうち,鉱物脱水の主要な起源は約60 – 160 ℃の範囲でスメクタイトがイライトへ相転移する際に放出される間隙水であると指摘されている.泥火山流体の溶存イオンや同位体比が示す地球化学的異常を用いて泥火山流体の起源に迫る上で,鉱物脱水に由来する水の酸素・水素同位体比を知ることは極めて重要である.本研究では,泥火山流体が互いに独立な3成分の混合で表現できるとして,陸上・海底泥火山のそれぞれに対して3成分混合モデルを構築し,実測された泥火山流体の酸素・水素同位体比とCl濃度をパラメータとして用いることで,鉱物脱水に由来する水のもつ酸素・水素同位体比の範囲の制約を試みた.また,Rayleigh分別式を用い,スメクタイトと水の間の同位体分別係数から,スメクタイト脱水流体の酸素・水素同位体比と温度の関係を計算した結果,脱水が完了する160℃での脱水流体の酸素・水素同位体比はδ18 O=+ 9.5 ‰, δD=-17.7 ‰と見積もられた.また,この結果を3成分混合モデルの計算結果と比較し,台湾の陸上泥火山とコスタリカ沖の海底泥火山の一部では2つの計算結果が良い一致を示した.一方で,台湾のCKF,LVFグループに属する泥火山,および種子島沖,東地中海の泥火山においては計算結果が合致せず,これらの地域においては3成分混合モデルが適当ではないことが推察された.これらのうち,LVFグループについては他の泥火山とは異なる端成分をもつ3成分混合系と考えるのが適当であると結論付けた.また,それ以外の泥火山に対しては4成分混合モデルを適用して検討し,有馬型温泉の起源水を4成分目として計算するとRayleigh分別式による計算結果をよく説明できることを示した.また,CKFグループでみられた同一泥火山におけるCl濃度,酸素・水素同位体比が時期によって異なっていることについて,有馬型温泉起源水の混合比の変化として表現することができた.沈み込み帯浅部の水循環において,有馬型温泉起源水のような,Cl濃度と酸素同位体比が大きく,水素同位体比が小さい流体が寄与している可能性がある.