日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC29] アイスコアと古環境変動

2015年5月26日(火) 16:15 〜 18:00 301A (3F)

コンビーナ:*川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、座長:池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、竹内 望(千葉大学)

17:30 〜 17:45

[ACC29-13] 天山山脈グリゴレア氷帽アイスコア中の硝酸体窒素および酸素の安定同位体比

*竹内 望1大手 信人2藤田 耕史3Aizen Vladimir4 (1.千葉大学、2.京都大学、3.名古屋大学、4.アイダホ大学)

キーワード:アイスコア, 安定同位体, 硝酸, 雪氷微生物, 中央アジア, 天山山脈

雪氷中の硝酸の窒素および酸素安定同位体比は,硝酸の起源を推定する強力な手段である.その同位体比は,エアロゾルとして供給される硝酸の供給源だけでなく、最近では氷河上に繁殖する微生物による窒素の硝化,脱窒,窒素固定などの効果も反映されていることがわかってきた.本研究では,中央アジア・天山山脈の西部,キルギスタンのグリゴレア氷帽で2007年9月に掘削した約87mのアイスコア中に含まれる硝酸の窒素および酸素安定同位体比を分析し,硝酸起源および氷河上の微生物活動の時系列変動を明らかにすることを目的とした.グリゴレア氷帽は,標高4600-4100mにわたる氷河で,掘削を行ったのはドーム形をした4600mの頂上部分の平らな雪原である.87mのアイスコアは,底部から得られた土壌の放射性炭素年代から約12700年分の雪氷を含むことが明らかになっている.アイスコアの平均硝酸濃度は288 ppbで,いくつものスパイク状の濃度上昇が存在した.全体的な濃度変動は,20世紀後半に高く,それ以前はいくつかの濃度上昇はあるものの比較的低い値であった.硝酸の窒素安定同位体比は,20世紀以前は+0.5 ~ +7.5‰であったのに対し,20世紀以降は-8.9 ~ -1.8‰とはっきりとした違いがみられた.これは、グリーンランドのアイスコアでも同様の傾向が見られている通り,硝酸の起源が,自然起源だったものが,20世紀以降は人為起源に変わったことを示している.一方,硝酸の酸素安定同位体比は,時代に関わらず概ね+70 ~ +80‰の範囲であったが,1960年代および約6000-7000 BPに,+30 ~ +60‰の比較的高い値がみられた.これは,ほとんどの硝酸は大気由来のものであるが,同位体比の高い値を示した時代では,氷河表面の微生物過程によって生産された硝酸が含まれていることを示唆している.以上の結果から,中央アジアのアイスコアの硝酸の窒素および酸素安定同位体比によって,硝酸エアロゾルの起源の変化および氷河表面の微生物過程を復元できる可能性が示された.