日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT23] 地球史解読:冥王代から現代まで

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 104 (1F)

コンビーナ:*小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、座長:越田 渓子(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

12:00 〜 12:15

[BPT23-12] イスア表成岩帯縞状鉄鉱層化学組成の独立成分分析から示唆される初期太古代の熱水組成とその活動プロセス

*青木 翔吾1加藤 泰浩2平田 岳史3小宮 剛1 (1.東京大学総合文化研究科広域科学専攻、2.東京大学工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター、3.京都大学理学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:初期太古代, イスア表成岩帯, 縞状鉄鉱層, 独立成分分析

海洋堆積物である縞状鉄鉱層(BIFs)は、中期原生代を除く先カンブリア時代の地質帯に普遍的に見られることから、これらの時代の地球海洋化学進化を議論するのに優れた地質試料である。特に、世界で分布が限られている初期太古代表成岩帯のBIFsの地球化学的な研究は、初期生命の誕生した初期地球海洋化学プロセスを復元する上で重要な情報をもたらす可能性がある。
しかし、一般的なBIFsは鉄酸化物とシリカからなる縞で構成され、さらに炭酸塩鉱物や砕屑粒子起源の鉱物が混入するため、その全岩化学組成は形成時の初生的な鉱物のモード組成に大きく依存する。したがって、BIFsの全岩化学組成から直接、当時の海水化学組成を議論することはできず、まずそれらの組成を構成鉱物の化学組成に還元して、それら構成鉱物それぞれの起源を議論する必要がある。
そこで、本研究では、初期太古代(38.1億年前)に形成されたイスア表成岩帯の80試料のBIFsおよびチャートの化学分析をXRFとICP-MSによって行った。そして、それらの全岩化学組成分析値を用いて、それらの岩石を構成していたと考えられる初生的な鉱物とその起源の推定を独立成分分析によって行なうことで、BIF試料の全岩化学組成を鉱物モード組成のばらつきによる線形な効果と水塊化学組成や吸着などの変化に伴う非線形な効果とに分けて議論を行なった。
その結果、イスア表成岩帯BIFs+チャートの全岩化学組成のばらつきは、①水酸化鉄チャート成分 + ②MgCaドロマイト成分 + ③FeCaアンケライト成分の3つの独立な鉱物成分のモード比で説明することができ、砕屑粒子の影響は小さいことが分かった。そして②と③の炭酸塩鉱物成分は①と同等かそれ以上の正のEu anomalyを持っている。これは、炭酸塩鉱物が水酸化鉄と同じかそれよりも強い熱水環境で形成されたことを意味し、>39.6億年前に形成されたNulliak表成岩帯のBIFにおいても見られる特徴である。このことから初期太古代の海洋環境では、熱水が炭酸塩鉱物の沈殿場であったことが想定される。
さらに②と③の成分の弱く、①の効果が強く働いている試料は、現在の中央海嶺周辺域の海底熱水性鉄質堆積物と同様にEu anomalyと全岩希土類元素/Fe比、La/Yb(軽希土類元素/重希土類元素)比との間に負の相関が見られることが分かった。このような相関関係は、現在の中央海嶺熱水堆積物においては、熱水活動の強弱に起因する堆積埋没速度によって、希土類元素の鉄酸化物への吸着が阻害されることで生じるものと考えられている。したがって、初期太古代海洋においてもこのプロセスが存在したことを仮定すると、鉱物モード組成によらないイスア表成岩帯BIFsの化学組成のバリエーションが熱水活動の強弱によって説明することができる。