18:15 〜 19:30
[STT54-P01] 再解析データJRA-55によるInSAR対流圏遅延補正効果の検証
キーワード:InSAR, 対流圏遅延, 再解析データ, JRA-55, ERA-Interim
合成開口レーダー干渉法 (InSAR) の位相情報には地表変動の他に地球大気による大気伝搬遅延効果が重畳しており, 数mmから数cm程度の微小変動を検出する際の障害となっている. 大気伝搬遅延効果は地球大気による屈折率が真空中での屈折率と異なるために生じる効果であり, 電離層中の自由電子に起因する電離層遅延と対流圏以下での中性大気に起因する対流圏遅延とに分けることが出来る (Doin et al., 2009). InSARと同様に大気伝搬遅延効果を受ける全球測位システム(GNSS)での研究から対流圏遅延は乾燥大気による静水圧遅延と水蒸気による湿潤遅延に分けられることが知られており (Bevis et al., 1992), InSARにとっては時空間的変動の大きい湿潤遅延が高精度地表変動検出における主要な誤差要因となっている (Zebker et al., 1997). これまでにGNSSの遅延量データを利用した補正法や数値気象モデルを利用した補正法など数多くの研究が為されてきたものの, 現状では微小地表変動検出を達成するほどの精度には至っていない.
数値気象モデルを用いた補正法では, 地形に相関する対流圏遅延に対し気候解析用に作成された再解析データが有効であることが近年報告されている (e.g. Jolivet et al., 2014). しかしいずれの研究も特定のデータセットのみを用いての事例解析的な研究のためデータセット間の相違に言及したものは無く, また研究対象となった地域以外での補正の有効性については検証されていない.
本研究では2014年より提供が開始された気象庁55年長期再解析データ (JRA-55) を用いてInSAR対流圏遅延の補正を行い, その効果を検証した. JRA-55は長期にわたる高品質で均質な気候データセットの作成を目的とした再解析プロジェクトである (Kobayashi et al., 2015). JRA-55のモデル水平解像度はTL319 (約60 km), 鉛直60層となっており, 3次元データは6時間毎に提供されている. 本研究ではJRA-55に含まれる気圧, 気温, 比湿のデータを時間内挿してJolivet et al. (2014) と同様の計算法で鉛直伝搬遅延量を計算し, 三角関数を用いてSARの視線方向遅延量へ変換した. また, ヨーロッパ中期予報センターのERA-Interim再解析データ (水平解像度0.75度, 鉛直37層) でも同様に遅延量を計算し, JRA-55との比較を行った. 補正の対象とするSARデータには降雪が少なく観測の多い名古屋周辺 (Path:411, Frame:690) のALOS/PALSARデータを用い, GAMMAソフトウェアで干渉処理を行った. 地形縞除去には国土地理院の10 m楕円体高データを用いた. 干渉性の低下によるInSAR画像の劣化を避けるため垂直基線長が3000 mより短い干渉ペアのみを対象とした. 28のSLCデータを用いて干渉処理を行った結果, 合計309のInSAR画像を作成した. 一部のInSAR画像には軌道縞推定時の推定誤差あるいは電離層擾乱と思われる長波長の位相変化が見られるが, 対流圏遅延効果によるものかの判別が出来ないため多項式フィッティングによる長波長トレンドの除去は行っていない.
JRA-55, ERA-Interimによる伝搬遅延補正の結果, 全InSAR画像の標準偏差の平均値は補正前が1.26716 cmであったのに対し, JRA-55による補正後は1.25231 cmに減少した. 一方ERA-Interimによる補正では補正後の標準偏差の平均値は1.26797 cmとなり, わずかに増加するという結果が得られた. また, 再解析データから得られる伝搬遅延量を乾燥遅延と湿潤遅延に分けてそれぞれ補正した場合, 乾燥遅延補正後と湿潤遅延補正後それぞれの標準偏差がJRA-55では1.26053 cmと1.2659 cm, ERA-Interimでは1.26223 cmと1.28106 cmとなった. この結果から, ERA-Interimの補正が有効ではなかった要因の一つとして湿潤遅延の現実再現性の低さが考えられる.
講演当日はJRA-55及びERA-Interimによる補正効果を報告し, その効果の違いについて考察をする予定である.
数値気象モデルを用いた補正法では, 地形に相関する対流圏遅延に対し気候解析用に作成された再解析データが有効であることが近年報告されている (e.g. Jolivet et al., 2014). しかしいずれの研究も特定のデータセットのみを用いての事例解析的な研究のためデータセット間の相違に言及したものは無く, また研究対象となった地域以外での補正の有効性については検証されていない.
本研究では2014年より提供が開始された気象庁55年長期再解析データ (JRA-55) を用いてInSAR対流圏遅延の補正を行い, その効果を検証した. JRA-55は長期にわたる高品質で均質な気候データセットの作成を目的とした再解析プロジェクトである (Kobayashi et al., 2015). JRA-55のモデル水平解像度はTL319 (約60 km), 鉛直60層となっており, 3次元データは6時間毎に提供されている. 本研究ではJRA-55に含まれる気圧, 気温, 比湿のデータを時間内挿してJolivet et al. (2014) と同様の計算法で鉛直伝搬遅延量を計算し, 三角関数を用いてSARの視線方向遅延量へ変換した. また, ヨーロッパ中期予報センターのERA-Interim再解析データ (水平解像度0.75度, 鉛直37層) でも同様に遅延量を計算し, JRA-55との比較を行った. 補正の対象とするSARデータには降雪が少なく観測の多い名古屋周辺 (Path:411, Frame:690) のALOS/PALSARデータを用い, GAMMAソフトウェアで干渉処理を行った. 地形縞除去には国土地理院の10 m楕円体高データを用いた. 干渉性の低下によるInSAR画像の劣化を避けるため垂直基線長が3000 mより短い干渉ペアのみを対象とした. 28のSLCデータを用いて干渉処理を行った結果, 合計309のInSAR画像を作成した. 一部のInSAR画像には軌道縞推定時の推定誤差あるいは電離層擾乱と思われる長波長の位相変化が見られるが, 対流圏遅延効果によるものかの判別が出来ないため多項式フィッティングによる長波長トレンドの除去は行っていない.
JRA-55, ERA-Interimによる伝搬遅延補正の結果, 全InSAR画像の標準偏差の平均値は補正前が1.26716 cmであったのに対し, JRA-55による補正後は1.25231 cmに減少した. 一方ERA-Interimによる補正では補正後の標準偏差の平均値は1.26797 cmとなり, わずかに増加するという結果が得られた. また, 再解析データから得られる伝搬遅延量を乾燥遅延と湿潤遅延に分けてそれぞれ補正した場合, 乾燥遅延補正後と湿潤遅延補正後それぞれの標準偏差がJRA-55では1.26053 cmと1.2659 cm, ERA-Interimでは1.26223 cmと1.28106 cmとなった. この結果から, ERA-Interimの補正が有効ではなかった要因の一つとして湿潤遅延の現実再現性の低さが考えられる.
講演当日はJRA-55及びERA-Interimによる補正効果を報告し, その効果の違いについて考察をする予定である.