11:45 〜 12:00
[SCG60-04] S波伝搬経路解析が制約する含水ウェッジマントルの分布とダイナミクス
キーワード:S波スプリッティング, アンチゴライト, 含水ウェッジマントル, 地震波異方性, 地震波伝播経路, マントル対流
H2O を含む沈み込み流体はプレート収束域におけるダイナミクスと地球表層から深部への物質循環を理解する上で重要である。マントルウェッジの水に富む流体は主にプレート運動によって沈み込んだアンチゴライト由来である。アンチゴライトは沈み込むスラブの脱水が予想される、比較的暖かい沈み込み帯に分布すると一般的に考えられている。地震波観測はアンチゴライトが多い領域やその含有量を決定するのによく用いられる(アンチゴライト単結晶では、低Vp = ∼6.5—6.7 km/s, 低Vs = ∼3.4—3.7 km/sかつ高Vp/Vs = ∼1.8—1.9)。
しかしながら、アンチゴライトは強い地震波異方性(∆Vp ≤ 46 %と∆Vs ≤ 66 %)を示すため、アンチゴライトの地震波速度やVp/Vs比が、地震波の伝搬経路によっては非常に高いバラツキを示す可能性がある(Vp = 5.6—8.9 km/s, Vs = 2.5—5.1 km/sそしてVp/Vs = 1.2—3.4) 。これは観測した地震波速度の平均値を用いた解析では必ずしも含アンチゴライト蛇紋岩とかんらん石に富むdryマントルを区別できないことを意味する。そのためアンチゴライト、つまり水の分布と含有量の決定は極めて難しいと考えられる。
本研究では、長いdelay time(∼1 s)を伴う海溝に平行なS波異方性が観測されている琉球弧をモデル地域とし、観測された地震波経路を用いてウェッジマントル内で生じることが予想されるS波スプリッティングの理論計算を行った。地震波観測地点に対して前弧側から入射する地震波と背弧側から入射する地震波の双方のS波スプリッティングの観測結果を説明するためには、ウェッジマントル内の最深部でスラブに平行に配列するアンチゴライトがその上方のウェッジマントル中深部では鉛直方向に配列しなければならず、またそれらの領域のアンチゴライトの含有率は65 %以上であることが明らかになった。地震波伝搬経路と変形したアンチゴライトを含むマントルの地震波異方性を考慮した、この解析方法はアンチゴライトの分布、含有率、そして配列方向を制約することができる。 琉球弧におけるアンチゴライトの配列方向の変化は、1019 Pa s以下の長期体積粘性率の含水前弧マントルにおける対流の存在が考えられる。
他地域のS波スプリッティングの観測結果を解析した結果、琉球弧の例と同様ウェッジマントル内に、長いdelay timeを伴う海溝に平行なS波異方性が、スラブの年代に関係なく、冷たい沈み込み帯からも観測されていることが明らかになった(e.g 伊豆—ボニンとトンガ—カーマディック沈み込み帯)。この結果は、スラブの脱水に関係した、大規模な蛇紋岩化と含水マントル流動がこれまでの想定より広く起こっている可能性を示唆しており、冷たい沈み込み帯の前弧マントルはdryであるという一般に受け入れられている認識を見直す必要があるかもしれない。
しかしながら、ウェッジマントル内でのdelay timeが短い沈み込み帯もまたウェッジマントルの温度構造に関係なく報告されている。強いS波スプリッティングを示さない、いくつかの沈み込み帯とその温度構造の不整合には、ウェッジマントル底部の含水層の構造浸食と関係があるかもしれない。もう一つの要因としてはスラブの沈み込み角度が関係しているかもしれない。長いdelay timeを伴う沈み込み帯では比較的、高角の沈み込み角度 (∼40—60 °)を持っており(琉球, アリューシャン, 伊豆—ボニンそしてトンガ—カーマディック沈み込み帯)、低角の沈み込み角度を持つ沈み込み帯では、強いS波異方性は観測されていない。高角の沈み込み帯は、対流に必要なウェッジマントル内でのスラブに平行な面構造とほぼ鉛直な面構造の両領域を発達させる空間を提供している、重要な幾何学的形状かもしれない。
しかしながら、アンチゴライトは強い地震波異方性(∆Vp ≤ 46 %と∆Vs ≤ 66 %)を示すため、アンチゴライトの地震波速度やVp/Vs比が、地震波の伝搬経路によっては非常に高いバラツキを示す可能性がある(Vp = 5.6—8.9 km/s, Vs = 2.5—5.1 km/sそしてVp/Vs = 1.2—3.4) 。これは観測した地震波速度の平均値を用いた解析では必ずしも含アンチゴライト蛇紋岩とかんらん石に富むdryマントルを区別できないことを意味する。そのためアンチゴライト、つまり水の分布と含有量の決定は極めて難しいと考えられる。
本研究では、長いdelay time(∼1 s)を伴う海溝に平行なS波異方性が観測されている琉球弧をモデル地域とし、観測された地震波経路を用いてウェッジマントル内で生じることが予想されるS波スプリッティングの理論計算を行った。地震波観測地点に対して前弧側から入射する地震波と背弧側から入射する地震波の双方のS波スプリッティングの観測結果を説明するためには、ウェッジマントル内の最深部でスラブに平行に配列するアンチゴライトがその上方のウェッジマントル中深部では鉛直方向に配列しなければならず、またそれらの領域のアンチゴライトの含有率は65 %以上であることが明らかになった。地震波伝搬経路と変形したアンチゴライトを含むマントルの地震波異方性を考慮した、この解析方法はアンチゴライトの分布、含有率、そして配列方向を制約することができる。 琉球弧におけるアンチゴライトの配列方向の変化は、1019 Pa s以下の長期体積粘性率の含水前弧マントルにおける対流の存在が考えられる。
他地域のS波スプリッティングの観測結果を解析した結果、琉球弧の例と同様ウェッジマントル内に、長いdelay timeを伴う海溝に平行なS波異方性が、スラブの年代に関係なく、冷たい沈み込み帯からも観測されていることが明らかになった(e.g 伊豆—ボニンとトンガ—カーマディック沈み込み帯)。この結果は、スラブの脱水に関係した、大規模な蛇紋岩化と含水マントル流動がこれまでの想定より広く起こっている可能性を示唆しており、冷たい沈み込み帯の前弧マントルはdryであるという一般に受け入れられている認識を見直す必要があるかもしれない。
しかしながら、ウェッジマントル内でのdelay timeが短い沈み込み帯もまたウェッジマントルの温度構造に関係なく報告されている。強いS波スプリッティングを示さない、いくつかの沈み込み帯とその温度構造の不整合には、ウェッジマントル底部の含水層の構造浸食と関係があるかもしれない。もう一つの要因としてはスラブの沈み込み角度が関係しているかもしれない。長いdelay timeを伴う沈み込み帯では比較的、高角の沈み込み角度 (∼40—60 °)を持っており(琉球, アリューシャン, 伊豆—ボニンそしてトンガ—カーマディック沈み込み帯)、低角の沈み込み角度を持つ沈み込み帯では、強いS波異方性は観測されていない。高角の沈み込み帯は、対流に必要なウェッジマントル内でのスラブに平行な面構造とほぼ鉛直な面構造の両領域を発達させる空間を提供している、重要な幾何学的形状かもしれない。