日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC50] 固体地球化学・惑星化学

2015年5月25日(月) 16:15 〜 18:00 102A (1F)

コンビーナ:*下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、座長:山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

17:30 〜 17:45

[SGC50-13] 捕獲岩を用いた日本島弧深部地殻の組成推定

*長尾 潤1小澤 一仁1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:捕獲岩, 一ノ目潟, 高島, ニュートリノ, 島弧, 地殻組成

大陸地殻の進化過程を理解する上で、大陸地殻組成を正確に決定することは必要不可欠である。大陸深部地殻の試料を直接入手することは困難なため、その組成は地震波データと変成岩や捕獲岩といった岩石試料から推定される。地震波の速度は密度に左右されるため、地震波データからは大陸地殻の構造や主要元素の情報が得られるが、微量元素については調べられない。一方、変成岩や捕獲岩といった岩石試料からは主要元素だけでなく微量元素についても調べられるが、これらの岩石試料を採取できる地域は非常に限られている。したがって、幅広い範囲の大陸深部地殻の主要元素及び微量元素組成を推定するためには、地震波データと岩石試料から得られた化学的データを併せて解釈する必要がある。
これまでに大陸深部地殻の組成は大陸地域については詳細に調べられてきたが、日本の様な島弧については詳しく調べられていない。地震波データによれば、大陸地域と島弧とでは地殻の厚さ・主要元素組成が異なるので、島弧の深部地殻の組成を推定する必要がある。そのため、今回は秋田県一ノ目潟と佐賀県高島の捕獲岩合わせて約100個について主要元素をXRFで、微量元素をLA-ICPMSを用いて測定した。
主要元素組成から一ノ目潟の捕獲岩は超塩基性岩から中性岩に、高島の捕獲岩は超塩基性岩から酸性岩に分類された。また微量元素組成からは両地域の捕獲岩は、Nb,Ta,Zr,HfといったHFSEに欠如し、PbといったLILEに富むことがわかった。このことからマントルウェッジでのマントルの部分融解の際に流体が関与し、日本島弧深部地殻が形成されたと考えられる。こうした日本島弧の深部地殻の組成と大陸地域の変成岩や捕獲岩から推定されている大陸地域の深部地殻の組成とを比較すると(図1)、SiO2濃度は変わらないにも関わらず、ほぼすべての液相濃集元素について大陸地域に比べて島弧の方では濃度が低いことがわかった。またHFSEについては、日本島弧の方がより顕著に欠如していることがわかった。これらのことは、日本の沈み込み帯において流体の影響が強く、マントルの部分融解度が大きかったことを反映していると考えられる。Uについては島弧と大陸地域とで濃度に差は見られなかった。Uには酸化的環境下だと流体に溶けやすくなり、還元的環境下だと溶けにくくなるという性質がある。また、約22億年前に地球表層は還元的環境から酸化的環境になったことが知られていることから、大陸地域の古い大陸地殻形成時には還元的環境下でUはHFSE同様、流体に溶けにくかったが、日本島弧の若い大陸地殻形成時には酸化的環境下でLILE同様、流体に溶けやすくなったと考えられる。今回用いた捕獲岩の主要元素・微量元素間に弱い相関があることが確認された。今後別の地域の捕獲岩でも同様の相関が見られるか調べる必要があるが、こうした相関から地震波データと組み合わせることで日本島弧深部地殻の広範囲の組成を推定できることが期待される。