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[SCG58-11] プロトエンスタタイトークライノエンスタタイト相転移間の粒径の影響
キーワード:エンスタタイト, 相転移, 粒径効果
【はじめに】
エンスタタイト(MgSiO3)多形の一つであるプロトエンスタタイト(PEN, 空間群:Pbcn) は常圧下において約1000~1557℃で安定領域を持ち、 一般的には急冷不可な相であると考えられている。実際、現在までのところ天然試料中にPENが存在することを報告した例は無い。しかし、Foster(1951)、Lee and Heuer(1987)などは、実験により得られた試料から室温でのPENの存在を報告しており、天然試料の観察結果とは齟齬がある。
Smyth(1974)はエンスタタイト多形間の相転移に関する詳細な高温単結晶X線回折実験を行ない、PENの冷却が速い場合はクライノエンスタタイト(CEN, P21/c) に、冷却がゆっくりな場合はオルソエンスタタイト(OEN, Pbca)に相転移することを示し、急速に進行するPENとCEN間の相転移はマルテンサイト的であると結論づけた。一般的にマルテンサイト変態は原子の拡散を伴わず格子のせん断変形によって起こり、マルテンサイト相への相転移が始まる温度(Ms温度)が粒径依存性を示す、すなわち粒径が小さいほどMs温度が下がることなどが知られている。
PENとCEN間の相転移がマルテンサイト的であれば、その転移が粒径による影響を受けると推論される。そこで本研究では、PENが室温で残留可能となる具体的条件を明らかにすることを目的とし、粒径に着目してPENの冷却実験を行った。
【実験】
各実験の出発物質は小嶋(1982)に従いフラックス法により合成したOENを用いた。このOENを粉砕し、ナイロンメッシュ等で各粒径(~3μm, ~10μm, 35~51μm, 32~63μm, 51~73μm, 73~96μm, 63~125μm, 96~105μm)に分別したものをそれぞれ白金管に詰め、箱型電気炉で1200℃で20時間保持してOENをPENに相転移させた後、5℃/min.の速さで冷却した。回収した各試料はキャピラリーを用いたX線回折実験(XRD: RIGAKU, SmartLab)により相を同定した。また、放射光施設PFのビームラインBL-4B2に設置されている高温X線回折実験装置を用い、粒径73~96μm、~3μmの2試料についてPENを1200℃から徐々に降温させてゆき、PENからCENへの相転移が開始する温度を観測した。
【結果・考察】
粒径73~96μm以上の試料ではCENのピークのみしか現れなかったが、粒径51~73μm以下のものでは、PENとCENのピークが両方現れ、粒径が小さくなるほど室温での残留PEN量が増加する傾向があった。さらに、粒径73~96μmでは700℃程度まで降温するとPENからCENへの相転移が開始されたが、粒径~3μmの場合は600℃程度に降温するまで相転移が開始されなかった。以上の結果から、PENとCEN間の相転移は明らかに粒径に影響を受けていると考えられ、粒径が数10μm程度の大きさ以下であれば、室温下でもPENが残留可能となることが分かった。また、この結果はPENとCEN間の相転移がマルテンサイト型であることを支持するものでもある。
[1]Foster(1951), J. Am. Ceram. Soc. 34 [9], 255-259.
[2]Lee end Heuer(1987), J. Am. Ceram. Soc 70 [5], 349-360.
[3]小嶋(1982), 岩石鉱物鉱床学会誌 特別号 3, 97-103.
エンスタタイト(MgSiO3)多形の一つであるプロトエンスタタイト(PEN, 空間群:Pbcn) は常圧下において約1000~1557℃で安定領域を持ち、 一般的には急冷不可な相であると考えられている。実際、現在までのところ天然試料中にPENが存在することを報告した例は無い。しかし、Foster(1951)、Lee and Heuer(1987)などは、実験により得られた試料から室温でのPENの存在を報告しており、天然試料の観察結果とは齟齬がある。
Smyth(1974)はエンスタタイト多形間の相転移に関する詳細な高温単結晶X線回折実験を行ない、PENの冷却が速い場合はクライノエンスタタイト(CEN, P21/c) に、冷却がゆっくりな場合はオルソエンスタタイト(OEN, Pbca)に相転移することを示し、急速に進行するPENとCEN間の相転移はマルテンサイト的であると結論づけた。一般的にマルテンサイト変態は原子の拡散を伴わず格子のせん断変形によって起こり、マルテンサイト相への相転移が始まる温度(Ms温度)が粒径依存性を示す、すなわち粒径が小さいほどMs温度が下がることなどが知られている。
PENとCEN間の相転移がマルテンサイト的であれば、その転移が粒径による影響を受けると推論される。そこで本研究では、PENが室温で残留可能となる具体的条件を明らかにすることを目的とし、粒径に着目してPENの冷却実験を行った。
【実験】
各実験の出発物質は小嶋(1982)に従いフラックス法により合成したOENを用いた。このOENを粉砕し、ナイロンメッシュ等で各粒径(~3μm, ~10μm, 35~51μm, 32~63μm, 51~73μm, 73~96μm, 63~125μm, 96~105μm)に分別したものをそれぞれ白金管に詰め、箱型電気炉で1200℃で20時間保持してOENをPENに相転移させた後、5℃/min.の速さで冷却した。回収した各試料はキャピラリーを用いたX線回折実験(XRD: RIGAKU, SmartLab)により相を同定した。また、放射光施設PFのビームラインBL-4B2に設置されている高温X線回折実験装置を用い、粒径73~96μm、~3μmの2試料についてPENを1200℃から徐々に降温させてゆき、PENからCENへの相転移が開始する温度を観測した。
【結果・考察】
粒径73~96μm以上の試料ではCENのピークのみしか現れなかったが、粒径51~73μm以下のものでは、PENとCENのピークが両方現れ、粒径が小さくなるほど室温での残留PEN量が増加する傾向があった。さらに、粒径73~96μmでは700℃程度まで降温するとPENからCENへの相転移が開始されたが、粒径~3μmの場合は600℃程度に降温するまで相転移が開始されなかった。以上の結果から、PENとCEN間の相転移は明らかに粒径に影響を受けていると考えられ、粒径が数10μm程度の大きさ以下であれば、室温下でもPENが残留可能となることが分かった。また、この結果はPENとCEN間の相転移がマルテンサイト型であることを支持するものでもある。
[1]Foster(1951), J. Am. Ceram. Soc. 34 [9], 255-259.
[2]Lee end Heuer(1987), J. Am. Ceram. Soc 70 [5], 349-360.
[3]小嶋(1982), 岩石鉱物鉱床学会誌 特別号 3, 97-103.