日本地球惑星科学連合2015年大会

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口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS22] ミクロスケール気象現象解明にむけた稠密観測・予報の新展開

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 301A (3F)

コンビーナ:*古本 淳一(京都大学生存圏研究所)、常松 展充(東京都環境科学研究所)、荒木 健太郎(気象庁気象研究所予報研究部)、座長:東 邦昭(京都大学生存圏研究所)

09:45 〜 10:00

[AAS22-17] 海風前線近傍に出現した非降水エコーの挙動と気流構造についての解析

*南雲 信宏1加藤 輝之1 (1.気象研究所)

キーワード:局地循環, 稠密観測(ドップラーレーダー・ドップラーライダー), 数値シミュレーション

夏季の関東平野では、晴れた日中に孤立積乱雲が発生し局地的に大雨となることがある。平野部における積乱雲の発生要因の一つには海風前線などの局地循環が挙げられるが、局地循環の構造はレーダーでは捉えることは出来ず、またアメダスの通常の地上観測だけでは解像度が粗く海風の全体像をとらえることは困難である。しかし現業気象レーダーは、時折、晴天時や降水域周辺の非降水域において非降水エコーを観測することがある。2013年7月23日に東京都心部で発生した積乱雲事例では、積乱雲発生に先立って数時間前から羽田空港に設置された空港ドップラーレーダー(DRAW:観測半径60km)が非降水エコーを捉え、しかも沿岸部で帯状に集中し、時間と共に徐々に内陸へ侵入する様子をとらえた。そしてこの事例では平野部で発生した積乱雲は非降水エコー集中帯の周辺で発生していた。観測された非降水エコー集中帯がその発生時間や進入の特徴から海風に対応していることはわかるが、非降水エコーとの詳細な位置関係、その形成メカニズムについてはほとんど調べられていない。そこで、我々は羽田空港に設置されたDRAWと周辺の気流構造を捉えられることができる東京工業大学(大岡山キャンパス)のドップラーライダー(観測半径6km)、さらに地上に展開する気象観測データを含む、複数の観測測器で構築した稠密観測網データを用い非降水エコーと海風の関係について調査した。また気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)の解像度250mの計算を実施し、再現された気流構造の解析から非降水エコーの発生の要因と挙動のメカニズムについて考察を行った。
ドップラーライダーの観測では内陸方向に進入する下層の流れとそれより上の反流構造をもつ厚さ約1500mの詳細な海風構造を捉えることが出来た。ドップラーライダーが観測した海風は、2つの凸部とその間の細い楔状の隙間の凹部、いわゆるLobes and Cleft構造を表現していた。一方、DRAWが観測した非降水エコーはその海風前線の数キロ風上で生じ、上下に蛇行する構造と次第に海風前線に接近する様子をみせた。両方の分布を重ね合わせると、非降水エコーの分布と海風の構造に対応関係がみられ、Lobe構造の後方では高度200m程度の低い高度に非降水エコーが分布し、Lobe構造の前面で主に高高度(約800m)に分布していた。そして、その前方の細いCleft構造の下で再び低高度の分布傾向を示した。また非降水エコーが多く集中し帯状構造を形成していた場所は、Cleft構造周辺の狭い領域(Cleft~Lobe前面)であった。
JMA-NHMの解像度250mで行った数値計算結果は、海風発生後の内陸進入時の上述の観測の特徴をよく表す風分布であった。海風の進行方向に沿った鉛直断面図を解析したところ、非降水エコーの集中帯がみられたCleft構造付近では地上の風の収束が見られた。そのすぐ後面のLobe構造は前面で上昇流、後面で下降流を形成していた。そしてLobe構造全体の風が循環に近い構造を示していた。そこで発表においては、高解像度シミュレーションの解析から明らかになる海風内の非降水エコーの挙動の要因ついて、温度場や力学場の観点で考察した結果を報告する。