日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 火山・火成活動と長期予測

2015年5月26日(火) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*及川 輝樹(独)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(財団法人電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、石塚 吉浩(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、下司 信夫(産業技術総合研究所 地質情報研究部門)

18:15 〜 19:30

[SVC47-P15] 大雪火山,御蔵沢溶岩のマグマ混合過程と苦鉄質包有物の成因

馬場 輝1、*和田 恵治1 (1.北海道教育大学旭川校)

キーワード:マグマ混合, 苦鉄質包有物, 大雪火山, 御蔵沢溶岩, 斜長石斑晶

大雪火山、御蔵沢溶岩は御鉢平カルデラ南東の緩斜面上から噴出した1枚の溶岩流である。御蔵沢溶岩の大部分が安山岩質溶岩(SiO2=57.3-60.6wt.%)からなるが、一部でデイサイト質溶岩(SiO2=62.4-63.6wt.%)、安山岩質とデイサイト質からなる縞状溶岩が見られる。また、安山岩質溶岩中には苦鉄質包有物(SiO2=51.3-58.0wt.%)が見られ、御蔵沢溶岩は1つの溶岩流に縞状溶岩と苦鉄質包有物が共存する稀有な溶岩流である。本研究では、御蔵沢溶岩を噴出させたマグマ供給系におけるマグマ混合過程と苦鉄質包有物の成因を岩石学的手法で明らかにした。
御蔵沢溶岩を構成する安山岩質溶岩は、縞状構造や苦鉄質包有物の存在、異なる組成を持つ斑晶の共存、斜長石斑晶の逆累帯構造からマグマ混合によって形成されたと考えられる。また安山岩質溶岩中の斜長石斑晶の多くはコアに溶融組織、リムに逆累帯構造を持つ。これは御蔵沢溶岩が複数回のマグマ混合で噴出したことを示しており、初期の混合から噴出までの時間が元素拡散速度からおよそ60-600年と見積もられた。また御蔵沢溶岩に含まれる斑晶はコアの組成からType-A斑晶群, Type-B斑晶群に分けられる。各タイプの斑晶は同じタイプ同士で集斑晶を形成していることから、それぞれ同じマグマから晶出したと考えられる。Type-A斑晶群は高An斜長石、高Mg斜方輝石、高Al2O3単斜輝石、カンラン石からなり、これらの斑晶は苦鉄質マグマ由来である。Type-B斑晶群は低An、低MgO斜長石、低Mg♯斜方輝石、低Al2O3単斜輝石からなり、これらの斑晶は珪長質マグマ由来である。苦鉄質マグマと珪長質マグマの温度を輝石温度計を用いて推定した結果、それぞれ約1000℃、900℃という温度が得られた。
 御蔵沢溶岩の苦鉄質包有物は結晶のサイズが細粒~粗粒で組織が多様である。これらを斜長石のサイズ(長径/短径比)で分類し、Type-1(2?12), Type-2(1?7), Type-3(1?4)の3種類に分類した。Type-1苦鉄質包有物は細長い針状の斜長石が多い。Type-2苦鉄質包有物は柱状の斜長石が大部分を占める。Type-3苦鉄質包有物は他の苦鉄質包有物よりも斜長石の結晶サイズが大きく、多くが斑晶サイズ(210-960μm)のものからなる。
各苦鉄質包有物の成因を組織的・組成的に考察した。Type-1苦鉄質包有物は細粒な石基組織であること、鉱物組成が安山岩質溶岩中の微斑晶と似ていることからマグマ溜まり内の苦鉄質マグマと珪長質マグマの境界にあるハイブリッド層マグマが急冷固結したものであると思われる。Type-2苦鉄質包有物は粗粒で高結晶度の石基組織を持つこと、鉱物組成がデイサイト質溶岩中の鉱物組成と一致していること、マスバランス計算でデイサイト質溶岩の化学組成に一致することから、このタイプは珪長質マグマのクリスタルマッシュ層が噴出時に破砕されて安山岩マグマ中に包有されたものだと思われる。Type-3苦鉄質包有物は、含まれる結晶の多くがType-A斑晶群と同一であることから注入した苦鉄質マグマそのものが安山岩マグマ中に取り込まれたものだと思われる。
上述した岩石学的データを基に、御蔵沢溶岩のマグマ溜まりにおけるマグマ混合モデルを次に示す。はじめ、クリスタルマッシュ層を有する珪長質マグマ溜まりに苦鉄質マグマが注入した。この注入により、珪長質マグマの斜長石斑晶は溶融され、結晶内部に不均質な組織を形成した。また、注入した苦鉄質マグマと珪長質マグマの境界層では、マグマ混合により玄武岩質安山岩~安山岩マグマのハイブリッド層を形成した。初期の注入から60-600年後、苦鉄質マグマの再注入によって噴火が引き起こされた。噴出時、苦鉄質マグマと珪長質マグマは混合して安山岩マグマを形成した。苦鉄質マグマの影響を受けなかった珪長質マグマはデイサイト質溶岩や安山岩質溶岩との縞状溶岩を形成した。ハイブリッド層マグマ及び苦鉄質マグマは安山岩マグマに取り込まれ、それぞれType-1苦鉄質包有物、Type-3苦鉄質包有物を形成した。噴出時に火道へのマグマ上昇で破砕された珪長質マグマ溜まり上部のクリスタルマッシュ層は安山岩マグマに取り込まれてType-2苦鉄質包有物を形成した。