日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 B (地球生命科学) » B-AO 宇宙生物学・生命起源

[B-AO01] Astrobiology: Origins, Evolution, Distribution of Life

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*小林 憲正(横浜国立大学大学院工学研究院)、山岸 明彦(東京薬科大学生命科学部)、大石 雅寿(国立天文台天文データセンター)、田近 英一(東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻)、掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、井田 茂(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)

18:15 〜 19:30

[BAO01-P08] タイタンにおける生命存在の可能性-アセチレンを用いた代謝経路を持つ微生物の生存条件

*池田 さやか1野口 克行1瀬戸 繭美1松尾 玲奈1 (1.奈良女子大学)

キーワード:タイタン, 宇宙生物学, メタン生成菌, アセチレン, 微生物

地球では様々な極限環境において微生物が発見されており、これまで考えられていた以上に過酷な環境で微生物が存在し得ることが明らかになってきた。一方、太陽系内の探査の進展や系外惑星の発見に伴い、地球以外の環境における生命の存在について議論がなされている。太陽系内では、火星をはじめとする惑星・衛星において生命が存在する可能性が議論されている。その中でも、土星の衛星であるタイタンは地球と同程度(1.5気圧)の厚さの大気を持ち、大気組成は窒素やメタンをはじめとする様々な有機物である。これらは原始地球の大気組成と似ていると考えられている。また、タイタンではメタンが地球における水と似た役割を担っていると考えられている。例えば、地球大気では水蒸気が温室効果を担っているが、タイタン大気ではメタンがその役割を担っている。また、地球では大気と地表面との間に水循環が存在しているのと同様に、タイタンでは低温のためにメタンが気相だけでなく液相も取り得るおかげで、メタンが大気と地表面を循環していると考えられている。そのため、タイタンではメタンが地球の水の代わりの役割を持つとしてメタンを利用する微生物が存在するのではないかという仮説がある。

タイタン大気には、生命の存在を仮定すると矛盾しない観測事実がいくつかある。まず、タイタン大気に存在するメタンの量は、光化学的寿命を考えると継続的な供給源が必要である。その候補の一つとして、微生物の代謝によるメタンの供給が挙げられている。また、観測されているメタンの炭素同位体比(12C/13C)はタイタンの形成理論から考えられるよりも軽い。地球においては生命起源のメタンは炭素同位体比が軽いため、この観測事実も生命起源であることと矛盾しない。さらに、水素分子濃度の鉛直勾配が光化学モデルで予想されるよりも2倍ほどずれており、地表面で水素をメタンに変換する生命起源の反応が存在するとすれば観測事実を説明できる。

このような問題意識のもと、タイタンにおいて水素を消費してメタンを放出する代謝反応系をもつ微生物の存在の可能性が過去に議論されてきた。微生物がある化学反応系を生命活動に利用するためには、ギブスの自由エネルギー変化が負である必要がある。このような条件を満たす反応系のうち、本研究では最もギブスの自由エネルギー変化が大きい(つまり、最も効率的にエネルギーを取り出すことができる)と期待される化学反応として、アセチレンを水素付加する反応(C2H2+H2 -> 2CH4)に着目した。このような化学反応を代謝に利用する微生物が存在すると仮定したときに、タイタンの環境下で実際に取り出すことが可能な自由エネルギーを計算した。さらに、Seto [2014]の手法にならってこのような微生物がタイタン環境下で生存可能かを議論した。具体的には、タイタンでの気温・気圧条件下において、ギブスの自由エネルギーと反応速度を掛けたものをエネルギー収入量とし、それよりも生命維持のために必要なエネルギーが小さいとき、生存可能であると定義する。この計算には微生物の各種パラメータが必要であるが、地球上でアセチレンを代謝に用いている微生物のものを参考にした。このような手法を用いて、タイタンで微生物が生存に必要なアセチレン濃度の議論を行なった。