18:15 〜 19:30
[PCG32-P04] Cassini探査機搭載ISSデータを用いた木星対流圏エアロゾルの推定
キーワード:木星, 雲構造, 放射伝達, Cassini探査機
木星表層の雲には,東西に延びる帯状構造 (白色に見える部分をzone,茶褐色に見える部分をbeltとよぶ) や大赤斑に代表される渦構造等の特徴がある.これらの模様の違いは,雲層構造やエアロゾルの光学的特性の違いを反映している.これらの物理情報をリモートセンシング手法から得るためには,エアロゾルによる多重散乱を扱う必要があり,その散乱特性 (散乱位相関数) の理解が必要不可欠となる.
我々は,Cassini探査機に搭載されたImaging Science Subsystem (ISS) の木星フライバイ観測データ (観測期間:2000年-2001年3月,太陽位相角:0°-140°) を用いて,エアロゾルの散乱位相関数を推定してきた.この研究では,2波長 (BL1:有効波長455 nm,CB2:有効波長750 nm) で観測された典型的なzone (the South Tropical Zone:STrZ) とbelt (the north component of the South Equatorial Belt:SEBn) 領域について解析を行った.簡便のため,エアロゾルの散乱にはMie散乱理論を適用できると仮定した.この仮定のもとに得られたエアロゾルの屈折率はnr = 1.85となり,表層雲を構成していると考えられてきたNH3氷の実験値 (nr = 1.42) より,はるかに大きい値となった.この結果は,NH3氷が分光観測によって見つかっていないという先行研究を支持するものである.
一方で,対流圏に浮かぶエアロゾルは非球形粒子であると考えられてきた.球状粒子の散乱を記述するMie散乱理論の適用については,常に議論をよぶ問題である.そこで我々は,いくつかの非球形粒子の散乱位相関数とCassini探査機データから得られたMie散乱位相関数を比較することで,Mie散乱理論をもとに得られた結果のどこまでがロバストな結果であるのか評価した.非球形粒子として回転楕円体を仮定し,さまざまな屈折率,有効半径,長軸短軸比の組み合わせに対して,それらの散乱位相関数を計算した.散乱位相関数の導出には,T-matrix法を用いた.これによると,表層雲の候補であるNH3氷 (nr = 1.42) に近い屈折率 (nr = 1.45) をもつ回転楕円体の散乱位相関数は,有効半径や長軸短軸比に関係なく,Cassini探査機データから得られたMie散乱位相関数に比べ,後方散乱が弱いことが分かった.このような散乱位相関数の形状では,観測データを再現することは不可能である.一方,高屈折率 (nr = 1.85) である回転楕円体の散乱位相関数の中には,散乱の強さ,位相関数の形状ともに,Cassini探査機データから得られたMie散乱位相関数に類似するものがあり,実際に観測データを再現できるか試行する価値がある結果を得た.このことから,非球形粒子にまで目を向けた場合でも,表層雲は純粋なNH3氷からなるわけではない,と言えるだろう.
本発表では,実際に非球形粒子の散乱位相関数を用いたモデル計算結果と観測データの比較も含めて,議論する.
我々は,Cassini探査機に搭載されたImaging Science Subsystem (ISS) の木星フライバイ観測データ (観測期間:2000年-2001年3月,太陽位相角:0°-140°) を用いて,エアロゾルの散乱位相関数を推定してきた.この研究では,2波長 (BL1:有効波長455 nm,CB2:有効波長750 nm) で観測された典型的なzone (the South Tropical Zone:STrZ) とbelt (the north component of the South Equatorial Belt:SEBn) 領域について解析を行った.簡便のため,エアロゾルの散乱にはMie散乱理論を適用できると仮定した.この仮定のもとに得られたエアロゾルの屈折率はnr = 1.85となり,表層雲を構成していると考えられてきたNH3氷の実験値 (nr = 1.42) より,はるかに大きい値となった.この結果は,NH3氷が分光観測によって見つかっていないという先行研究を支持するものである.
一方で,対流圏に浮かぶエアロゾルは非球形粒子であると考えられてきた.球状粒子の散乱を記述するMie散乱理論の適用については,常に議論をよぶ問題である.そこで我々は,いくつかの非球形粒子の散乱位相関数とCassini探査機データから得られたMie散乱位相関数を比較することで,Mie散乱理論をもとに得られた結果のどこまでがロバストな結果であるのか評価した.非球形粒子として回転楕円体を仮定し,さまざまな屈折率,有効半径,長軸短軸比の組み合わせに対して,それらの散乱位相関数を計算した.散乱位相関数の導出には,T-matrix法を用いた.これによると,表層雲の候補であるNH3氷 (nr = 1.42) に近い屈折率 (nr = 1.45) をもつ回転楕円体の散乱位相関数は,有効半径や長軸短軸比に関係なく,Cassini探査機データから得られたMie散乱位相関数に比べ,後方散乱が弱いことが分かった.このような散乱位相関数の形状では,観測データを再現することは不可能である.一方,高屈折率 (nr = 1.85) である回転楕円体の散乱位相関数の中には,散乱の強さ,位相関数の形状ともに,Cassini探査機データから得られたMie散乱位相関数に類似するものがあり,実際に観測データを再現できるか試行する価値がある結果を得た.このことから,非球形粒子にまで目を向けた場合でも,表層雲は純粋なNH3氷からなるわけではない,と言えるだろう.
本発表では,実際に非球形粒子の散乱位相関数を用いたモデル計算結果と観測データの比較も含めて,議論する.